LAのシューゲイザー・アーティスト Winter、ニューアルバム『Adult Romantix』を 8/22 リリース!
Photo by Sophie Hur
LAを拠点に活動する Samira Winter によるドリームポップとシューゲイザーをブレンドしたプロジェクト Winter、ニューアルバム『Adult Romantix』を Winspear から 8/22 リリース!先行シングル「Just Like A Flower」のミュージックビデオを公開しました。別れとは、ある意味で、もっとも純粋で、もっとも意味のある表現の形かもしれません。涙ぐんだハグであれ、何気ないテキストメッセージであれ、それは誰かとのつながりを再確認し、その関係に終止符を打つ行為です。そして同時に、それは美しく儚く、それでいて本質的に重みのあるジェスチャーでもあります。「またね」という名の郷愁を含んだ儀式──その瞬間を琥珀の中に閉じ込め、次に再会する時には、まったく別の感情と状況に包まれていることを暗に予告するものなのです。別れは辛く──時に危うさすらはらんでいます。そしてサミラ・ウィンターは、その陶酔的な甘苦しさを誰よりも知っています。
先行シングル「Just Like A Flower」のMV公開!
シンガーソングライターでありギタリストでもある彼女は、ロサンゼルスの音楽シーンで10年以上活動してきました。Winter という名義のもとで、細部まで美しく設計されたエレクトリックなドリームポップの世界を築いてきたのです。ブラジル・クリチバで育ち、ボストンで初めてのバンド活動を経て、2013年にロサンゼルスへと移住。そこでDIYロックコミュニティと出会い、エコーパークの自宅の地下室は、数々のライブと Winter 自身の初リハーサルの舞台にもなりました。ロサンゼルスの宇宙的でインスピレーションに満ちた空気に心を奪われた彼女ですが、やがて「自分を成長させるには環境を変える必要がある」と痛感するようになり、苦しいながらも避けられない決断として、ニューヨークへの移住を選びます。
この感情的な海岸越えの移動を前に、彼女はおよそ2年間、移動の合間やツアー先、仮住まいの中で曲を書き続けました。その結果生まれた13曲は、彼女の新しいアルバム『Adult Romantix』に結実します。これは、2022年の傑作『What Kind of Blue Are You?』に続く作品であり、レーベル Winspear からの初リリースでもあり、ロサンゼルス時代への別れのラブレターともいえる作品です。
前作『What Kind of Blue Are You?』は彼女にとっての “リセット” であり、暗く癒やしに満ちた、きわめてパーソナルな作品でした。そして今作では、L.A.を去ることを決意した彼女の心に、記憶とノスタルジアの波が押し寄せ、20代への敬愛があふれ出します── The Echo で観たライブ、南カリフォルニアのドライブ、灼熱の太陽の中で感じる人生の焦燥と予感めいた終末感。今作では、そんな思い出の亡霊たちを追体験しながら、その余韻とともに日常を歩いていく彼女の姿があります。彼女はこの作品を「夏と記憶のトンネル」と呼び、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』などのロマン派文学や90年代のロマコメ映画からインスピレーションを受けながら、ロマンティックで、時に劇的で、そしてあどけなさも感じさせる空気を作品全体に漂わせています。
サウンド面では、「失われたL.A.の夏」というビジョンに沿って、電子音中心だった2024年のEP『…and she’s still listening』から大きく舵を切り、ざらついたインディーロック的な音像へと向かいました。Sonic Youth の『Rather Ripped』や Elliott Smith のアコースティック、Dean Blunt の実験的ロック、カリフォルニアのシューゲイザー(Further、Starflyer 59)などがその影響源です。オープンチューニングのアコギとエフェクトまみれのギター、リヴァーブに包まれたボーカルが、甘く切ない空気感を漂わせる、逃避と回想のサウンドスケープを生み出しています。
冒頭の繊細なイントロを経て、本編は「Just Like a Flower」で全開に。Sarah Records 的な甘さと、Dinosaur Jr. ばりのファズ・ギターが共存します。最初に書かれた曲は「In My Basement Room」で、前述の地下室への愛を込めた讃歌であり、The Microphones の Phil Elverum のソングライティング講座を通じて生まれた曲です。
他にも、「Misery」は Horse Jumper of Love の Dimitri Giannopoulos と共作され、Bed-Stuy での偶然の再会によって現実の空間と楽曲がリンクしました。「Hide-a-Lullaby」では Tanukichan の Hannah van Loon が共演し、「Running」では Alex G バンドの Samuel Acchione がギターとボーカルで参加。ポルトガル語の歌詞を含む「Without You」や「Candy #9」では、彼女のブラジル的ルーツも自然に織り込まれています。
歌詞の面では、ゴシック文学の劇的なロマンスと、インディーポップの無邪気さが絶妙なバランスで共存。「Just Like a Flower」では「酔って、キマって、ベッドの中で、“Fuck and Run” を聴いてる。12歳のときから」といった軽快な一節が登場する一方、「The Beach」では「愛は決して死なない」という真っ直ぐすぎる宣言が響きます。これらは一見矛盾しているようでいて、若き日々の感情の“両立”を見事に描いています。
最も深いテーマは、「ノスタルジアとどう向き合うか?」という問いです。記憶の中にある美しさをどう味わいつつ、現実逃避に陥らず、自分の“今”を見つめ直すか?サミラにとってその答えは単純ではありませんが、このアルバムは、その問いに対するひとつの “ピン留め” のようなものなのです。
別れとは、地図上の出来事ではありません。風景や通りが、記憶の中で人格を持ち、思い出を染め上げていくのです。『Adult Romantix』は、彼女にとって20代の“香りの記憶”を辿りながら、30代への視座を開く試みでした。そこにあるのは、ロマンス、後悔、自己破壊、そして深い内省──そして終わりを告げる夏の亡霊のような気配。「Hide-a-Lullaby」の第2ヴァースでは、彼女はこう囁きます。
涙で書いて、唇をなめて。甘いのに苦い、それを天使に送るの
天使の街・ロサンゼルスに捧げられた、この神聖でメロドラマティックな別れの歌が、サミラ・ウィンターの人生と音楽のひと区切りとなるのです。