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Dry Cleaning デビューアルバム『New Long Leg』インタビュー

Photo by Steve Gullick

4月2日にイギリスを代表するインディペンデント・レーベル 4AD より待望のデビューアルバム『New Long Leg』をリリースしたサウス・ロンドンの4人組アート・パンク・バンド Dry Cleaning (ドライ・クリーニング)。

ボーカルのフローレンス・ショウは、美術大学を卒業後イラストレーション分野の講師をしていた経歴を持ち、音楽経験がない状態でバンドのメンバーになったという。情報や記憶の断片をなんとか繋ぎ合わせて再構築したようなフローレンスの歌詞。そしてその歌詞を詩の朗読のように抑えたトーンで歌うボーカルスタイル、オルタナティブ ・ロックの陰鬱さ、低空を疾走するようなスピード感が重なり合うサウンドは、近年騒がれているサウス・ロンドンの音楽シーンでも強烈な存在感を放っている。

今回、フローレンス、ニック・バクストン(ドラム)、トム・ダウズ(ギター)がインタビューに応じてくれた(ベースのルイス・メイナードは不参加)。バンド結成は2017年だが、元々付き合いが長い彼ら。今作の制作エピソードはもちろん、歌詞の中に出てくる骨董品紹介番組、ガレージ練習時代の楽しくも刹那的なエピソードなど当時の思い出を振り返りながら、始終和気あいあいとした雰囲気で答えてくれた。

取材協力:ビートインク

「フローレンスをボーカルにしよう。きっとうまくいく」と直感した。

ーーフローレンスが加入する前はインストバンドを組んでいたとのことですが、どんなサウンドだったのでしょうか?

ニック: デビューEP『Sweet Princess』からフローレンスのボーカルを抜いた状態のサウンド、といえば分かりやすいかな。最初はインストバンドとして活動していたけれど、曲を作っていくうちに僕たちの作品にはボーカルが必要だと思って、それでフローレンスに頼んだんだ。フローレンスはまず「Magic of Megan」の作詞をしてくれたんだけど、まだタイトルも付いていなかった他のインストの5曲に歌詞をつけてくれてレコーディングしたんだ。フローレンス加入後 2、3ヶ月くらいの間の出来事だった。

ーー当初、フローレンスはバンド加入に対して不安な気持ちになっていたそうですね。

フローレンス:そう言わざるを得ないね。それまで音楽活動をしたことがなかったから、確かに緊張していた。未知の世界って感じで。それに、それまではバンドのメンバーとは音楽的な関わりはなかった。怖くて怖くて仕方がなくて、新しい仕事の初日みたいな気持ちだった。悪夢を見たときのような気分に近いかも。何かに出くわしても、何をしていいか分からないような。歌詞を忘れたり、ステージに出ても何をしていいのか分からない、みたいな悪夢を見ることがあるの。「あぁぁ!私は今このバンドのボーカルのはずなのに何をしたらいいのかよく分からない」みたいに。最初の頃はそんな不安な気持ちがあった。

ニック:これから先何が起こるのかをすごく心配していたよね。疑心暗鬼になっていたんだろうね。

フローレンス:そう。注目されることを心配していた気がする。

トム:パンデミック以降、以前より自信を持って演奏できるようになったことは間違いなく大きな進歩だよね。4人で活動を始めたばかりの頃はフローレンスを見て緊張することもあったけど、今ではお互いを見ることで自信が持てるようになったし他のメンバーにも気を配ることができるようになったのはすごく良いことだよ。アイコンタクトをとることでバンドがまとまってきた。バンドが進化するにつれて機材や表現方法も増えてきたから、生み出すサウンドとパフォーマンスとのバランスをどう上手くとるかに気を付けることが今後の課題かな。

ーーフローレンスでなければどうしてもダメだという決め手は何だったのでしょう?

トム:実際知り合いの中でいろいろな人が候補になっていて声はかけていたよ。そんな中、フローレンスと飲みに出かけたんだ。その頃お互い漫画を作っていて、自分たちの漫画について話していた。ちなみに、僕とフローレンスは昔美術を勉強していてその頃からの知り合いなんだ。僕は彼女にヘッドフォンでドライ・クリーニングの音源を聴かせて、彼女がバンドについていろいろ質問してくれたり良い反応を示してくれた。

フローレンスがボーカルを担当すること、そのことが自分の中でしっくり来ていたし刺激的だと思った。フローレンスもすぐに興味を持ってくれた。ただ、一応不安はあったけどね。この先どんな感じになるのかは想像つかなかったけれど、そうするべきだと思ったんだ。採用面接みたいな必然的なものではなくて、偶然に起こった出来事だった。考える必要なんてない。「フローレンスをボーカルにしよう。きっとうまくいく」と直感した。

ニック:ダムドのボーカリストオーディションの有名な話は知ってる?ボーカリスト志望者がオーディション部屋に入ると、メンバーがそいつに向かって唾をかけて物を投げたんだ。そして最終的に彼らが選んだボーカリストというのは、そのなかで唯一やり返した奴だった。演奏技術などを重要視したわけではない。その話で重要なのは、バンドメンバーとして選ばれるべき人のふるまいには何か特別なものがあるということなんだ。

フロ―レンス:バンドというものは一つのチームだから、その中で一人ひとりがメンバーとして自分にしかできない役割がなければならないと思う。

ーーボーカルやソングライターとしての彼女の魅力は?

トム:そんなに深く考えたことはなかったけれど、彼女の話し方かな。ユーモアセンス抜群だよね。実は僕たち4人ともバンドを結成するずっと前からフローレンスのことを知っていた。僕はフローレンスと知り合って8年ぐらいだけれど、ニックとルイスとフローレンスの付き合いはもっと長い。ボーカリストやソングライターとしてフローレンスがぴったりだと思ったのは、単に感性が良いなと思ったからであって、技術的なことはあまり関係なかった。フローレンスの過去についてはよく知らなかったけれど、クリエイティブ面でのアイデアが豊富だということは知っていた。どのようにアイデアを出し、どうやって他者に伝えるか。要するにユーモアセンス、個性、感性、すべてということだね。

ーー以前はルイスのお母さんのガレージでジャム演奏をしていたということです。実は最近インタビューしたGoat Girlもメンバーのお母さんのガレージで練習したと語っていました。日本では海外のようなガレージはほとんどないため、バンドの練習といえばレンタルスタジオに入って練習することが一般的です。ガレージ練習ではどんなところが気に入っていましたか?狭いながらも、快適だったそうですね。

フローレンス:無料だから!それが一番の理由(笑)。誰もがガレージを持っているわけではないから、ガレージをタダで利用できたのは本当にラッキーだった。

トム:練習場所問題はイギリスでどれだけ苦労してバンドを始めたかを示す重要なバロメーターなんだ。今でもロンドンで練習場所を探すのは大変だよ。ガレージ練習は18歳ぐらいのバンド練習の原点に立ち返ったような感じで新鮮だったよ。初めて楽器を手にして練習していた時期ってあまり複雑なことはせずシンプルに演奏していた。そういう時代に戻った感覚だった。ルイスの母親はロンドン南東のケント州というところに住んでいて、幸いにもそこにガレージがあったんだ。フローレンスが言うように、当時は経済的に余裕がなかったからガレージを使うことができてとてもラッキーだったよ。

ニック: その通り。ガレージで練習するバンドが多いと思われているかもしれないけど、実際にはロンドンでは日本みたいにスタジオを借りるのが一般的だよ。ガレージ自体が高価だし、ロンドン中心部の住宅地にはガレージは少ないのが現状。ガレージで練習していたことはドライ・クリーニングをスタートした時期の楽しい思い出で、10代の青春時代を思い出させてくれた。日曜日になると、僕らはポンコツ車でロンドンの端までドライブ気分で車を走らせた。ガレージに着くと機材をセッティングして30分ぐらい練習したよ。練習後にルイスのお母さんが作ってくれた料理を食べる。ゲームで遊んで、またガレージに戻ってを練習をする。当時フルタイムで働いていた僕にとって最高の現実逃避だったよ。

ーーそして今作は歴史あるロックフィールド・スタジオにて制作されましたが、2週間という期間はあっという間でしたか?

ニック:こんなに長い期間スタジオでレコーディングしたのは初めてだった。プロデューサーのジョン・パリッシュがスケジュールを組んでくれて、その通りに進めてくれたおかげで効率よく作業ができたよ。やるべきことがたくさんあったから、一つのことに時間をかけられなくて、常に動いてる状態だった。もちろん、2週間ずっとスタジオの中で生活したわけだから強烈な体験だった。恋人と犬に会えなくて寂しかったし、レコーディング後すぐに元の生活に戻るのは難しかった。期間としては長かったけれど、いろいろなことを次から次へとこなさなければならなかったからある意味ではあっという間だったね。4ADからリリースされるデビューアルバムを作っているということが精神的なプレッシャーではあったよ。

フローレンス:ジョンは作業をいつやめるかについてもきっちりしていた。スタジオに入る前は「もし朝4時から録音をすることになったらどうしよう。どうやって断ろうか…」と心配していたけれど、ジョンは真夜中にレコーディングをするタイプのプロデューサーではなくて安心した。決まった時間に食事をして、リラックスできる時間もあったし、ジョンの規則正しいレコーディングスタイルが好きだった。

ーードライ・クリーニングの歌詞はフローレンスが普段からメモしている文章のコラージュが多いそうですね。今回のアルバムの歌詞もコラージュのことを考えながら読むとまた違う聴き方ができて楽しめます。「John Wick」では

『アンティーク・ロードショー』の進行速度がすごく変わった
(They’ve really changed the pace of The Antiques Roadshow)

前より多くの骨董品を紹介し、次々と鑑定額を明かす一方で
(More antiques, more price reveals)

前ほど背景の情報が説明されなくなった
(Less background information)

鑑定額が明かされるのがあんなに楽しかったのは
(The reason the price reveals were so good was)

発表までじっと待たなきゃいけなかったからなのに
(because we had to wait for them)

とあり、この部分だけ日記の一部のようなまとまりのある文章なので目立つ印象を受けました。 BBCで放映されている骨董品紹介番組『アンティーク・ロードショー』 はフローレンスにとって思い入れのある番組なのでしょうか?

フローレンス:大好きだった!よく観ていたけれど、わざわざ観ていたわけではなかったよ。家や実家でテレビがついていると必ずと言っていいほど流れている番組なの。母方の祖母は古道具屋に行けば17世紀の本が2ポンドで買えるような時代に育ったから、母の家には収集したものがたくさんあった。当時は高価な値段で買ったものではないけれど、今では信じられないような貴重な骨董品のようなもの。それもあって、私たち一家はこの番組を見るのが好きだった。番組を観ていると「ああ、これはうちにもあった!」というような物も登場するの。アンティーク・ロードショーは、家族との思い出であり、癒しであり、観ているとなんとなくリラックスする。他の国でも放送しているみたいだけど、発想がイギリス的な気がする。船乗りのアクセサリーケースのようなものが登場するのもなんとなくイギリスっぽいよね。あと、あの番組にはとてもエキセントリックな人たちがたくさん出ていて、そういうところも好きだった。でも…残念ながら番組構成がすっかり変わっちゃったの!変わってしまったの!

一同:(笑)

フローレンス:とはいえ、私はまだ番組が大好き。番組制作者に嫌な思いをさせるつもりはないんだけど…彼らは変えてしまったの!

ーーそれを歌にしたかったのですね。

フローレンス:その通り!

ニック:専門家たちが品物の価値や背景について詳しく話している間、出品者も視聴者も「これはいくらの価値があるんだろう?」とワクワクできたのに、その価値について詳しく語る重要な部分が飛ばされてしまったよね。

フローレンス:昔よりハラハラドキドキしなくなったよね。

ーートムも観てました?

トム:二人ほどは観ていなかったよ。今はテレビがないから観る機会がないけれど、昔は観たことがある。アンティーク・ロードショーが放送されるのは日曜日だったから、番組を見ると「明日は学校に行かなきゃいけない…」ってちょっと憂鬱な気分になっていた。面白い番組だったよ。例えば「これは曾祖母から貰った品で、私にとって大切なものなのです」という話をしている人が、「これは5万ポンドです」と鑑定額が明かされた瞬間、「売るぞ!売るぞ!」とはりきっていて(笑)。大切なものだから絶対に売れないよね、400万ポンドぐらいの価値があるのにさ。

ーーちなみに日本にも似たような番組があります。

フローレンス:本当!?

トム:番組ロケで僕の故郷であるケント州のチャタムという街に来たときは面白かったよ。チャタムには16世紀に建てられた歴史的な造船所があって、そこでロケが行われたんだ。番組プロデューサーはきっと「ここなら面白い骨董品があるかもしれない」と思ったんだろうね。そうしたら、マクドナルドのハッピーミールのおまけのコレクターが登場したんだ。専門家が「…うーん。実に…興味深いコレクションだね。これは…10ポンドぐらいの価値があるんじゃないかな」って。

フローレンス:それはそれで素敵だけどね。

トム:物としての価値の問題ではないんだよね。センチメンタルな価値なんだよ!僕らにしたら「そんなのゴミじゃん」って思うけど。

「Strong Feelings」のPVで延々と流れる「道を作る」という行為が、デビューアルバムという新たな道を作る僕たちに重なったんだ。

ーーPVのアイデアはメンバーみんなで意見を出し合うのでしょうか?

トム:そうだよ。これまのPVでもずっとそうしてきたけれど、曲の世界観をどうやってPVに反映させるのか、ということをみんなで話し合って映像のアイデアを出し合うんだ。映像自体は歌詞とは何も関係ないところが面白いと思っているよ。見応えのあるPVになるように努力している。最近は曲を売りたいという意図が見え見えのPVが多いけれど、僕たちはそういうことには興味がないんだ。ちなみに「Scratchcard Lanyard」はバンドの存在感を出した作品だけど、「Strong Feelings」ではバンドメンバーは一切出てこない作品になっている。

ーーたしかに「Strong Feelings」では道路工事の映像が延々と映し出されていますよね。この作品はグリッチアーティスト(※グリッチアート=デジタルデータを破損させたり、電子機器を物理的に操作することで、画像や映像のエラーを故意に発生させる手法を使った表現方法)であるSabato Viscontiのカラーが前面に出ている仕上がりとなっていますが、どのようなきっかけでSabatoを起用したのでしょうか?

ニック:「グリッチアーティスト」で検索していたら、大量のGIF映像がストックされているGIPHYのサイトで偶然彼の作品を見つけたのがきっかけ。中でも好きなのは『barbie world』というバービー人形のゲームの作品だった。キャラクターがただ歩いていたり、スポーツカーがただ走っているだけだったりするけど、突然背景が消えたりして。ランダムで予期せぬ結果が生じるのが面白いよね。彼に「バービーの作品が大好きなのですが、僕たちのPV映像を一緒に作りませんか?」とメールを送ったんだ。バービーの映像を使いたかったけれど、著作権的に難しかったから別のアイデアを提案して「Strong Feelings」に使うことになったよ。道路を掘ったり作ったりする工事用車両がたくさん出てくるけれど、これはニュージーランドで道路建設の映像を撮っているレイ・コリンズ氏の素材を集めたものなんだ。「道を作る」という行為が、デビューアルバムという新たな道を作る僕たちに重なったんだ。

「Strong Feelings」のPVにはブレグジットの要素も入っている。政治的な意味ではなく、「ロマンティックな関係を引き裂くような存在のブレグジット」という恋愛感情的な意味合いでね。ブレグジットについては当時真剣に考えていたテーマだったからブレグジットのことを深く話し合う機会になったビデオだった。映像をSabatoに送ると彼がグリッチ加工してくれる。そして今後はこちらで再編集する。再編集では、音楽に合わせてグリッチにリズムを持たせるように編集したから、視覚的にも詩的な表現になっていると思うよ。

ーーフローレンスにとってはYouTubeのコメント欄でさえも歌詞のコラージュ素材になるとのことですが、最近印象に残っているYoutTubeのコメントはありますか?

フローレンス:ずっとコメントチェックが趣味だったけれど、最近ではあまりチェックしなくなったよ。特に自分たちのビデオに関しては、肯定的なコメントが多いのは分かっているけれどコメントを読むのが怖くてチェックしていない(笑)。

あと、製品のレビューも読むのが好き。中には表現豊かな文章、長い文章、感情的な文章もあったりして読んでいて面白いよ。例えば、購入した商品のサイズが合わないということに対しての不満や怒りが現れている文章なんかは読んでいてワクワクする。些細な事でもコメントした人のことや感情を感じることができるから。「Goodnight」で使ったYouTubeのコメントのように感動すら覚えることもある。的を得ていなかったりおかしなコメントだとしても、コメントを通じて書いた人の個人的な歴史をインターネット上で垣間見ることができるから好きなの。

ーーフローレンスとトムは美術分野出身とのことですが何の研究をしていて、何の教科を学校で教えていたのですか?

フローレンス:私もトムも、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートという美術大学でイラストレーションを学んでいて出会ったの。卒業後は二人ともイラストレーションを教える道に進んで、バンドを始める前の数年間は一緒に教えることも多かった。

ーーInstagram はイラストの写真が並んでいますが、このイラストは誰が描いているのでしょうか?

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ニック:フローレンスとトムだよ。

ーーInstagram 投稿のために描いているのですか?それとも普段描き溜めているものからの抜粋ですか?

フローレンス:練習として描いているだけだけどね。Instagram用に描いているものだよ。

トム:僕は時々描いている。何か面白いことを思いついたら描くよ。スケッチブックを見返してみて「これはいいな。使ってみようかな」と思ったものが多いよ。

ーーニックは全く描かないんですか?

ニック:今は時間がないからね。9歳くらいまでは絵をよく描いていたけれど、音楽に興味を持ち始めたら描かなくなっちゃった。

ーートムは Mr. Blunt Trauma というソロプロジェクトで音楽を制作していますが、現在メンバーそれぞれドライ・クリーニングの活動以外に関わっていることはありますか?

ニック:ロックダウンの間にスローペースだけどいろいろ音楽制作をしていたよ。特に明確な目的があって作っていたわけではなくて、家にこもるしかなかったからただひたすら音作りに集中していたんだ。1年前の最初のロックダウンのときは、仕事を辞めたばかりで「準備万端!はりっきって制作しよう!」と勢いがついていたのに、メンバー皆で集まって練習することもできなくなって本当に悔しい思いをした。ドライ・クリーニングはたくさんの人に届くような作品を作る、という明確な目標があるから活動していて面白いよ。

ーーフローレンスはいかがですか?音楽活動以外で何かしていますか?

フローレンス:2020年末にロンドンのバーモンジーにある小さなギャラリーで開催した「Both Keen」という展覧会にずっと取り組んでいたよ。Natalka Stephenson というアーティストとのコラボレーションで2年がかりのプロジェクトだった。私はプロジェクトの合間を縫って、ドライ・クリーニングの活動をしていた状態だったよ。

私たちにとってサウスロンドンの音楽シーンはちょっと未知の世界なの。

ーー散々聞かれているかと思いますが、サウスロンドンの音楽シーンについての質問です。近年サウスロンドンの音楽シーンは世界的にも注目されていて、特にウィンドミル界隈のシーンがよく話題にあがります。しかしながら、ドライ・クリーニングは同じサウスロンドン出身でも同じ文脈では語られないバンドかと思うのですが、サウスロンドンの音楽シーンそのものをどのように捉えていますか?

フローレンス:出た!サウスロンドンの音楽シーンの質問。この間は数時間で6回も聞かれたよ(笑)。でも質問に答えるのは嫌じゃない。

ニック:みんな知りたがっていて面白いよね。シアトルのライブハウスやニューヨークパンクの伝説的なライブハウスCBGBが話題なるのと同じだよね。実は僕らはウィンドミルで演奏したことは一度もないんだ。その界隈のバンドはよく知っているけれど、一緒に演奏したことはないよ。

フローレンス:私たちはウィンドミル界隈のバンドよりも年齢がかなり上だから世代的なものなのかな。音楽活動を始める前に大学で学んでいたり仕事をしていた時期もあったから、サウスロンドンの音楽シーンのバンドとして騒がれないのはそれが理由の一つだと思う。

サウスロンドンはすごく小さな地域のように思われているけれど、実際はすごく広いの。まぁ、ロンドン自体が巨大だからね。だからサウスロンドンで音楽をやっていたとしても、サウスロンドン出身バンドとして騒がれているバンドにあまり会わないというのは、それほど不思議なことではないよ。でも「そういうバンドと関わりがないなんて、もしかして彼らを避けているの?」 とか聞かれることもあるけれど「いやいや、ただ単にサウスロンドンには人が多いだけだよ」と答える。面白いよね。私たちが当初ライブを行っていたのはダルストン地区だったと思う。バンドを始めて1年間ダルストン以外でライブをしなかったのは、今思うと本当に不思議なことだった。サウスロンドンでのライブはまだ1回か2回しかやっていないと思う。ただ偶然そうなってしまっただけ。だから私たちにとってサウスロンドンの音楽シーンはちょっと未知の世界なの。

トム:ウィンドミルが注目されているのは面白い動きだよね。というのも、僕がロンドンに引っ越してきたばかりの頃、16年ほど前はウィンドミルのような場所はサウスロンドンのあちこちにあった。ウィンドミルは5ポンドでライブを観ることができたし、一晩で数回ライブが行われることもあった。ウィンドミルはそんなライブハウスの最後の一つだよ。ウィンドミルで演奏するのは年齢的に若いバンドが多いイメージがある。

ニック:サウスロンドンのシーンは昔から存在していたよ。ノースロンドンよりもサウスロンドンの方が物価が安いのもあってサウスロンドンに人が集まりやすいんだろうね。あと、ノースロンドンよりも人が多いから、音楽をもっと探求したいと思っている人たちにはぴったりの場所だと思う。若い世代のバンドは、僕たちよりもお互いに繋がりがあるみたいだね。

ーー最後に、最近のお気に入りのバンドや2021年になってよく聴いているアルバムを教えてください。

トム:僕たちみんなが揃って好きなのはゲーム音楽作曲家・古代祐三氏が手がけた『ベア・ナックル』のオリジナル・サウンドトラックだよ。とにかくかっこいい!最初にニックが教えてくれて、ロックフィールド・スタジオにいた時によく聴いていたよ。だからレコーディングへの影響もあったかもしれない。いつも頭の中で流れていた一枚だよ。

フローレンス:たしかに素晴らしいアルバムで私もよく聴いていた。あとギル・スコット・ヘロンの遺作『I’m New Here』も好き。彼の音楽はもともと好きだけど、近年リリースされた作品を聴き始めたのは割と最近なの。