interview :
UKの新星 Wet Leg デビューアルバム『Wet Leg』インタビュー

Photo by Hollie Fernando

「私たちはとにかく、何かを作るのが楽しくて仕方ない」―― Wet Leg デビューアルバム『Wet Leg』インタビューをお届けします。

イングランド南岸の小さな島、ワイト島より彗星のごとく現れたリアン・ティーズデイル(Vo.&Gt.)とヘスター・チャンバース(Gt.)によるインディーロック・デュオ Wet Leg (ウェット・レッグ)。

待望のデビューアルバム『Wet Leg』が4月8日に名門 Domino よりリリースとなる。「鉄は熱いうちに打て」ということで、生み出された音源を早い時期にレコーディングし完成させた今作は、Wet Leg らしいウィットとクールなセンスが炸裂した一枚に仕上がっている。

リリースを約1か月後に控えた現在の心境やアルバムの制作風景、地元ワイト島の音楽シーンなどについてリアン・ティーズデイルが Zoom インタビューで語ってくれた。

通訳:坂本麻里子 / 質問作成、文:indienative

――へスターとは17歳の時に音楽カレッジで出会ったそうですね。入学前から楽器には親しんでいましたか?

リアン:へスターはギターとピアノのレッスンを受けたことがあったみたいだけど、私は音楽経験は全くなくて。Aレベル(※一般教育修了上級レベル。中等教育卒業、もしくは大学入学レベルにあることの認定証)からドロップアウトしちゃったから、カレッジに通って音楽を勉強しようかなと思って入学したんだ。そっちの方が楽そうだったし。

でも、歌は子どもの頃からずっと歌ってきた。しょっちゅう歌ってたから、姉や兄たちにうざったがられてたな(笑)。ウェールズに家族でキャンプに出かけた時も、6時間くらいの移動中ずっと車内で歌いっぱなし。みんなから「リアーン、うるさいからやめて!」って言われても、「やだ、歌う!」みたいな子だった(笑)。

――では、ギターを弾くようになったのはカレッジに入学してから?

リアン:ギターを始めたのは今から3年くらい前、Wet Legを始めた頃。Wet Legではギターをやりたいって思ってたし、へスターにすごく助けてもらったり励ましてもらったんだ。弾いているのはシンプルなものだけどね。

自分の担当はボーカルがメインなんだけど、やっぱり曲をギターで演奏できるのはすごく気持ちいい。18歳の時にピアノに挑戦したこともあったけど、自分が何を弾いてるのか分かっちゃいなかったな(苦笑)。他人の曲はまったく弾けなくて、ただピアノを使って自分で歌ってただけ。

――では基本的に楽器に関しては自己流なんですね。

リアン:うん、そうなの。

――あなたの音楽的なルーツは?

リアン:小さい頃はとにかく舞台のミュージカルに夢中だった。だからだったんだろうな、しょっちゅう歌ってたのは(笑)。15歳の頃には姉/兄のiTunesを受け継いだ。私は上に3人いるから、その全員のライブラリをもらったの。

おかげで妙なごちゃまぜだったけれど、いろんな音楽に触れることができた。特にお気に入りだったのはPJハーヴェイやワイト島出身のバンド、ザ・ビーズ(The Bees)。姉のボーイフレンドがヒップホップにハマっていた影響で、ビースティ・ボーイズやア・トライブ・コールド・クエストみたいなヒップホップ系も好きだったな。

――スポンジのように音楽を吸収していたんですね。

リアン:うん。17歳になってカレッジで音楽を勉強し始めた頃、ついに自分のSpotifyアカウントを持てるようになったの。Spotifyが最初に登場した頃は最高だったな。「これで世界中の音楽全部にアクセスできる!」って感動したのを覚えてる。

ジョセフィン・フォスター、ジョアンナ・ニューサム、デヴェンドラ・バンハートみたいなフォーク系にハマったし、ムームやエフタークラング、シガー・ロスあたりの北ヨーロッパ系の音楽も聴いてたよ。一方でロック寄りのサウンドも好きだった。

キングス・オブ・レオンやザ・ストロークス、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブ、あと、ザ・ブラック・キーズとか。

デビューアルバム『Wet Leg』について

――アルバムの大部分は2021年4月にはレコーディングが完了していたそうですね。リリース日がだんだんと近づいてきた現在、この一年を振り返ってどんな心境の変化がありましたか?

リアン:たしかに、変化は確実にある。アルバム収録曲のいくつかは当時の恋人との別れについての歌詞なんだよね。歌詞を書いたのはレコーディングの半年くらい前。ってことは、1年半前の自分の心境を綴ったもの。

その頃はちょうど自分を取り巻く環境がどんどん変化していた時期だった。アルバムリリースは降って湧いたような話で、人生が変わる体験だったよ。だから、1年半くらい前の自分が当時付き合ってた男の子について書いた歌を、今の自分が歌うのは…(きまり悪そうに笑う)。

――ちょっと恥ずかしいですよね(笑)。

リアン:そう(笑)!とにかくもう、今の自分に当時の感情は理解不能(笑)。「うわっ!!この曲の時の自分、とんでもなく怒ってるなぁ…」って思ったりもするけれど、今の自分はもう「完全にあの失恋は乗り越えた」っていう状態だから、歌っててすごく可笑しいよ。

なんだか年下の自分を見ている気分。今はあの頃とは全然違う自分がいる。だから過去にこだわらず前進していこうと思ってる。

――どのような環境で歌詞が生まれることが多いですか?

リアン:歌詞を書き始めたのは17歳の時だったけど、あの頃は一字一句を考え抜いて入念に練るっていう書き方をしていたの。でも、今Wet Legの音楽を作る時は、へスターと私とでフリースタイル(即席)で、ぱっと思いついたことをそのまま口に出していく感じ。「これはどうかな?」っていちいち自己検閲しない。そのままのナンセンスを歌詞にしてるの(笑)。

「Chaise Longue」も「Wet Dream」も「Too Late Now」も「Oh No」も、みんなそうやって生まれたんだ。これまでに音源リリースしてきた曲はどれもセッション中に書いていったもので、前もってじっくり考えていた歌詞ではなかった。もちろん、歌詞はすごく大事な要素ではあるけれど、私としてはもう昔みたいに歌詞作りに長い時間を費やしたくはないんだ。

――それよりむしろ、その場で感じた気分や頭に浮かんだことをつかまえたい。一種、「意識の流れ」的な書き方というか。

リアン:そう。だから、入り組んで凝り過ぎていたり、複雑な歌詞にはしたくないの。声に出してみて気分が良ければ、そのまま言っちゃえ!って。

――作曲のプロセスは?

リアン:ちゃんとしたルーティンは決まってないよ。そもそも私たちの歌はどれも完全に偶然の産物みたいなものだから、作曲セッション専用のスタジオを確保した、なんてこともないし。仮にちゃんと時間をとってスタジオでセッションを組んだとしても、私たちはきっと曲も作るだろうけど、同時にクッキーでも焼いてるんじゃないかな(笑)。

テレビもつけっぱなしで、へスターはお絵描きしてるみたいな。ヘンテコな共同部屋みたいな雰囲気になっちゃいそう。

――「とにかく楽しむこと」をモットーに活動されていますが、アルバム制作の過程で一番楽しかった出来事は?

リアン:言葉では説明しきれないくらい、すべてがとにかく楽しかった!全員がスタジオ内のエネルギーを気に入ってた。みんな気分が良くて、子どもみたいにふざけたノリになってたよ。スタジオ内の照明も落として雰囲気を出して「自分たちはライブの真っ最中」っていうフリをしてテイクを録ったりもしたの。プロデュースを手がけたダン(・キャリー)のスタジオはすごくアットホームな雰囲気でね。

スタジオは彼の自宅にあるから、私たちも自分の家で演奏しているような気分だった。そういう環境も、レコーディング中にリラックスしてふざけられる時間を可能にしてくれたんだと思う。

ファッションについて

――Wet Legはファッションも大注目ですが、MV用の衣装やステージ衣装はどこで揃えていますか?

リアン:ただ単にいろんなところで見つけてくるだけ。Wet Leg結成前、私は衣装係のアシスタントとして働いていたから、ファッションや服に対してやや不健康なくらいの執着を常に抱いてきたの(笑)。でも、ファッションだって要は自己表現の形式のひとつだと思うし。

――「Oh No」のMVはモップのモンスターのような白い衣装が印象的ですよね。この衣装は何をイメージしていますか?

リアン:あの衣装は私がどこかで見つけてきてずっと放置していたんだけど、ふと「これでMVを作ったら笑えるんじゃない?」って思いついたの。それであの衣装を使って撮っただけだよ。着こなしも曲作りと同じで、しっかり意識して「こういう風にドレスアップしよう」って明確に決めるんじゃなくて、「今日はどんな格好する?」、「これ着てみようよ、笑えるし!」みたいなノリなんだ。そうやって常に遊び心をキープしてるんだと思う。

――今話があったように、あなたは以前ロンドンで衣装係の仕事をしていて、ヘスターは家業であるジュエリーの仕事をしていたとか。これからは音楽活動で忙しくなりそうですが、ファッションやジュエリーの仕事も並行して続けていくのでしょうか?

リアン:うん、そのつもり。2人ともまだワイト島に暮らしていて、へスターは今もジュエリーの仕事をしているよ。彼女は音楽業が一段落すると即ジュエリーの仕事に復帰するの。ジュエリーのショップは忙しいからやることがいっぱいあるみたい。私も休みがとれた時には1、2日ヘスターの仕事を手伝ったりするんだけど、ああいうのは自分も大好きなんだ。

――ちなみに、今あなたがつけているネックレス(※銀の太いチェーンに大文字「L」のレタリングを施したロケットがぶら下がったデザイン)はへスターの作品?

リアン:これは違うけど、こっちは(と、シャツの下に隠れていて見えなかった、細いゴールド・チェーンのネームネックレスを引っ張り出して見せてくれる)へスターが作ってくれたんだ。

――素敵ですね!

リアン:それに、これも、これも、それにこれも…(と、画面に左手をかざして、親指以外の4本にはめたシルバーのリングを見せてくれる。デザインは星、スマイルマークなど)全部へスター作なの!ジュエリーを作れる友だちがいるのってすごく便利だと思わない(笑)?

ワイト島の音楽シーンについて

――ワイト島の音楽シーンについて教えてください。小さな島ながら、歴史あるワイト島音楽祭(The Isle of Wight Festival)が行われていたりと、音楽が盛んな印象があります。

リアン:島にはたしかにシーンが存在するんだと思う。ただ、私とへスターが大きくなって分かったのは「これ」といったライブ会場が1つもないこと。私はロンドンでも、ブリストルでも暮らしたことがあるんだけど、どちらの街もシーンがものすごく活発だったの。

ワイト島にも音楽関係者やミュージシャンはたしかに住んでる。だって、ネット上で見かけたミュージシャンたちに、近所のテスコ(※英大手スーパーマーケット・チェーン)とかで実際に遭遇したりするし(笑)。でも彼らの演奏を生で観る機会はない。ちゃんとした会場がないから、ギグが開催されないってわけ。

というわけで、音楽シーンは間違いなく存在するとはいえ、大都市で体験できるような、いわゆる一般的な意味での「シーン」ではないんだ。それよりも、もっとこう…存在すると分かってはいるんだけど、実際にシーンを知るにはもっと深く探す必要があるの。

幸い、ワイト島には自分で何かを作るための時間や空間がたっぷりある。だから島ではクリエイティブなことがいろいろ起きているよ。

――来月からUSツアーが始まり、その後もライブが続々と決定していますが、2022年の目標や夢は何でしょう?

リアン:自分たちはまさに今夢の中にいる気分。要するに、これまで抱いていた「アルバムを作る」みたいな夢はもう叶っちゃったからね(笑)。

今年は良い作品をどんどん出して、良いライブをたくさんやりたいな。それに、もちろんファースト・アルバムのリリースがすごく楽しみ。あれが世に出れば、次の新しい作品に取りかかれるわけで。Wet Legの活動の醍醐味ってそこなんだよね。私たちはとにかく、何かを作るのが楽しくて仕方ないから。

あと、私はDJをやれるようになりたいな。友だちからやり方を教わる予定なの。

――最後に、ライブで日本に行く機会があったら何をしたいですか?

リアン:何本かライブをした後に、温泉に浸かって、それからラーメンを食べたい(笑)。「これだけは絶対にやりたい」ってことは特にないけれど、ただ日本をそのまま味わえたらいいな!

Wet Leg のデビューアルバム『Wet Leg』は2022年4月8日に、CD、LP、カセットテープ、デジタル/ストリーミング配信で世界同時リリース!国内盤CDにはボーナストラックとして「It’s Not Fun」「It’s A Shame」の2曲が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。