interview :
The Goon Sax、ニューアルバム『Mirror II』インタビュー

Photo by Elliott Lauren

7月9日に3年ぶりとなる3枚目のアルバム『Mirror II』をリリースした豪ブリスベンのインディー・ポップ・トリオ、The Goon Sax(ザ・グーン・サックス)。彼らがまだ高校生だった頃にリリースした1stアルバム『Up To Anything』(2016年)、『We’re Not Talking』(2018年)を経て、今作は名門<Matador>移籍後初となる待望のアルバムとなった。

儚さや青さの残るローファイなインディーポップを奏でるイメージの彼ら。今作でもその魅力はしっかり残しつつも、90年代のオルタナ/シューゲイザーの陰鬱さや歪み、近年のチルウェーブの浮遊感などのエッセンスも随所に感じられ、表現の幅がさらに広がり洗練され進化したサウンドに仕上がっている。

メンバーはギターのルイス・フォスター、ドラムのライリー・ジョーンズ、ベースのジェイムス・ハリソン。メンバー全員が揃って応じてくれた今回のインタビューでは、PJハーヴェイやスパークルホースの作品からドライ・クリーニングの最新作まで幅広いプロデュースで知られるジョン・パリッシュを迎えたレコーディングの話や、前作から今作の制作までの間に聴いたというノイズ、フリー・ジャズ、80年代イギリスのインダストリアル・ミュージックなどの音楽的バックグラウンドについても語ってくれた。

L=ルイス / R=ライリー/ J=ジェイムス
(インタビュー収録日:2021年6月24日)
通訳:原口美穂/協力:ビートインク/質問作成:indienative

ーー高校時代にザ・グーン・サックスを結成したということですが、最初の出会いやバンド結成のきっかけを教えてください。

ルイス:そう。俺とジェイムスは、友達の紹介で俺が13歳でジェイムスが15歳の時に知り合って、ザ・グーン・サックスとは違うバンドで一緒にプレイしていたんだ。でも二人ともそのバンドは脱退して、二人でザ・グーン・サックスを2013年に結成した。で、2014年の初めに学校で友達になったライリーにバンドに入ってくれと頼んだんだよ。それまでも何人かドラマーはいたんだけど、全員何かが違った。でも、数回ドラム・レッスンを受けただけのライリーが入ると、すごくしっくりきてさ。彼女はバンドにとって正に完璧だったんだ。

ーーお互い初めて会った時の印象はどうでしたか?

ルイス:ジェイムスは、なかなかどんな人なのかつかめなかった。ライリーも同じ。出会って30分で意気投合する人もたまにはいるけど、二人はそうじゃなかったね。一年くらいかけて親しくなっていったんだ。

ライリー:私は二人ともおバカでひょうきんだなと思った(笑)。最初に会った時はまだ10代だったしね。汗をダラダラかいてたのを覚えてる(笑)。10代の男子って感じ。ライブの時にすごく高く飛ぼうとしたり、周りの可愛い女の子たちの気を引こうと頑張ってハチャメチャなことをしてた。

ルイス:その努力が実ったかは謎だけどね。

ライリー:あれだけ高く飛んでたから、気づいてはもらえたんじゃない?(笑)

ジェイムス:ははは(笑)。まだ10代だったしね。とにかくエキサイティングなことをするのが好きだった。僕も初めてルイスに会った時は、おバカな奴だと思ったね。未だにそうだと思う(笑)。でも良い意味でだよ。楽しくて、おもしろいってこと。そして、やっぱりライリーの印象もおバカな子だった(笑)。二人ともよくおバカなジョークを言うから(笑)。あと、ルイスもライリーも僕が僕自身であることを好きでいてくれてすごく嬉しかった。二人ともすごく優しいんだ。

ーー結成当初から作曲、歌、楽器を交代で行っていたのでしょうか?

ルイス:最初の頃は、そこまで沢山楽器は演奏していなかった。俺が自分が書いた曲でギターを弾き歌い、ジェイムスも自分が書いた曲でギターを弾き歌って、自分が書いてない曲ではお互いベースを弾いていたんだ。そこにライリーが入り、ライリーはドラムを担当していた。

楽器を交代で演奏するのは、アルバムが出来上がる度にもっとそれをやるようになっていってる感じだね。前と比べて、曲作りの仕方はだいぶ変わったと思う。バンドを始めた頃は、俺が曲を沢山書いてそれをジェイムスに聞かせ、ジェイムスが書いた曲を俺に聞かせて、その流れでファースト・アルバムが出来た。

でもセカンド・アルバムではライリーも曲を書き始め、今回の新作ではライリーがもっと曲を書いている。前に比べると、3人全員がほぼ同じ割合で曲作りに関わるようになったと思うね。それってすごく良いことだし、エキサイティングだと思う。

ーー待ちに待った今作『Mirror II』についてお聞きしていきます。「Desire」の歌詞を書いていた頃は、シェアハウスで3人一緒に暮らしていたそうですが、どのような雰囲気だったのですか?シェアハウスを「Fantasy planet」と呼んでいたそうですね。

ライリー:「Fantasy planet」という名前は、哲学者ラカンの欲望のファンタジーのコンセプトから来ているの。自分たちが想像し、夢に描く、自分の周りに存在している精神的世界みたいな感じ。

ジェイムス:ライリーが組んでいるポスト・パンク・バンド、 Soot(スート)のメンバーや自分たちのパートナーたちと一緒に住んでいたんだけど、あの家は常に誰かが何かを創作している場所だったね。すごく楽しかった。

ーー彼らもザ・グーン・サックスになんらかの形で関わっていますか?

ライリー:スートのメンバーはその家に住んでいたけど、ザ・グーン・サックスとは関係なかった。でも私とジェイムスはそっちのバンドでもプレイしていたから、今回のアルバムにはその影響が本当に強く出ていると思う。

俺のパートナーも一緒に住んでいたんだけど、彼女が沢山レコードを聴かせてくれたから、そのレコードの数々からもインスパイアされていたし、それがアルバムにも現れていると思う。彼女についての曲も沢山書いたしね(笑)。

ーー「In the Stone」に漂う80年代~90年代のニューウェーブやポストパンクのMVのような映像のチープさや荒さ、「Psychic」に漂う90年代グランジのMVのようなノスタルジックさなど、どこか懐かしい雰囲気が感じられますが、MV制作にあたり影響を受けたものは何ですか?

ルイス:「In the Stone」のビデオで参照したのは、90年代初期のイギリスのレイヴ音楽。プライマル・スクリームとか。あとはスウェードとか初期のPJハーヴェイからも影響を受けてる。そして「Psychic」は、80年代とか90年代っぽいってよく言われるんだけど、俺が実際に意識したのは60年代のケネス・アンガー。あとは大林宣彦監督の『HOUSE』とか。あの映画の影響もすごく大きいんだ。でも、80年代っぽいとか90年代っぽいっていう意見も、良い意味で予想外ですごく嬉しいけどね。

ーー今作は陰鬱で歪んだギターや、ドラムマシンやシンセサイザーのサイケデリックなサウンドが印象的ですが、使用楽器でお気に入りのものはありますか?

ルイス:俺はシンセが好き。あれは間違い無く弾いていて一番楽しかった楽器の一つ。でも、実はシンセの殆どが今回のレコーディングでは使われる予定はではなかったものなんだ。でもスタジオに沢山シンセがあったから3人ともめちゃくちゃ興奮して、レコーディングの時に使うことにしたんだよ。あのシンセを聴くと、自分たちがどれだけ楽しんでいたかがわかる。ツマミを回して新しい音を発見していくのは、本当に楽しかったから。

ライリー:その通り。私が気に入っているのもシンセかな。すごく素敵なシンセサイザーが沢山あって、本当にクールだった。あの時点ではシンセがどんな風に機能するか予想もつかなかったから、触っている時はすごくドキドキしたし、不思議なものが生まれていくのがすごくエキサイティングだった。あんなに素敵なシンセが周りにある環境でレコーディング出来て、本当にラッキーだったと思う。キャンディ屋さんにいるみたいな気分だった(笑)。

ジェイムス:やっぱり僕もシンセ。あのアルバムからシンセを抜いたアルバムのことを想像したら、すごく残念だからね。シンセが、アルバムにより大きな自由と開放感をもたらしてくれたと思う。

ルイス:あとは、色々な異なるギターのスタイルが使われているのも今回のアルバムの醍醐味。3人共がそれぞれにギターソロを演奏しているから、トラックごとにギターのサウンドが違うと思うんだ。それぞれのプレイスタイルに個性があるし、俺はアルバムの中でそのポイントも気に入ってる。

ーーウィットに富んだ歌詞も魅力的な今作ですが、「Carpetry」ではカーペットについて歌っていますよね。

ジェイムス:”Carpetry”っていうのは、カーペットを大切に扱うという意味。カーペットの手入れをするって意味なんだ(笑)。”Carpentry”(=大工仕事)っていう言葉を文字って僕が作った言葉。カーペットって上にいると気持ちが安らぐから、そのことを曲にしようと思って(笑)。ふとそれを思って、あっという間に出来た。そういう意味では、この曲は感情がすごく素直に表現された作品だと思うね。

ーー前作は、プロダクションの面ではメンバーの手中外だった時もあったそうですが、今作はプロデューサーとの共同作業で出来上がったという手ごたえがあったそうですね。プロデューサー、ジョン・パリッシュとの仕事はいかがでしたか?
ちなみにサウスロンドンのバンド、Dry Cleaning (ドライ・クリーニング)に最新作『New Long Leg』のインタビューをしたのですが、彼らは「ジョンはスケジュールを完璧にたてて、それに従って作業するからやりやすかった」と話していました!

ジェイムス:彼との作業は素晴らしかった。彼のアプローチは、基本僕たちに自由にさせてくれるんだけど、同時にしっかりと助言もしてくれるんだ。何が機能して何か機能しないか、どうやったらより良くなるかをきちんと教えてくれた。彼のガイダンスは僕らにとって必要なものだったし、且つ自由でもいさせてくれて、本当に最高だったよ。

ルイス:今回のアルバムは、”これまでで一番プロデュースされたアルバムだね”って結構沢山の人達から言われてるんだけど、俺にとってはそれは面白い意見なんだ。今回はある意味これまでの中で一番スタジオの中で色々な音を実験したし、とりあえずアイディアを投げまくって、何が起こるか様子を見てみた。だから、すごく自由だったんだ。

でも、ジョンとジェイムスのおかげでそれが洗練されたサウンドになったんだと思う。マイクの位置が完璧でさ。どの距離でどんな音を拾うかのセッティングが完璧だったから、ものすごくクレイジーに演奏しても大丈夫だった。何かを制限されていると感じることは全くないまま作業を続けることができたんだ。あとジョンは、かなり俺たちの背中を押してくれた。

例えば、挑戦したいんだけどそれに挑戦すべきかよくわからないことがあるとする。でも俺たちは、ジョンを心から信頼しているから、彼がやったほうがいいと言えばそれをやる勇気が湧いたんだ。俺たち3人には、3人だからこそ作り上げることができたクリエイティブ・スペースがあって、そこに誰か他の人をいれて作業をするというのはすごく難しい。でもジョンはそこにすんなり入ってきたし、素晴らしい仕事をしてくれたんだ。

ライリー:3人とも、すごく彼をリスペクトしてる。彼を信用していたし、良い関係が築けたから、最後の方は彼が私たちに言わなくても彼がどう思っているかをわかるようにもなってた。例えば、このサウンドは機能しないんだな、とかね。感覚でわかるようになってきたの。彼とは確実に同じ目的をシェアしていたと思う。

ーー〈Matador〉からのリリースということで心境の変化はありましたか?

ライリー:前のレーベルのスタッフを通じて〈Matador〉と繋がったから、あまり変化は感じないかな。今回のアルバムで他と違うなと思うのは、沢山の人達がアルバム制作からリリースまでの過程に関わっていることくらい。だから、違う過程で出来上がったアルバムがリリースされたらどうなるかを見るのがすごく楽しみなの。

ルイス:ペイヴメントとかヨ・ラ・テンゴとか、自分たちが大きく影響されたバンドが所属しているレーベルの一部になれるなんてすごく嬉しいし、〈Matador〉は自分たちの音楽にとって素晴らしい居場所になると思う。

ーー前作から今作リリースまでの期間は、ジャンルを問わずとにかくいろいろな音楽を探求していたそうですね。

ルイス:名前で具体的に言うと、スロッビング・グリッスル、サイキックTV、コイルとか。そういった80年代にイギリスで活躍していたバンドに結構ハマったんだ。そこからクリス&コージーやカレント93のことも知って彼らのようなバンドからも影響されるようになった。今回のアルバムでは、その影響が感じられるはずだよ。

ライリー:私はノイズ・ミュージックやパンク・ミュージックを聴いていた。それからジャズ。最近は沢山ジャズを聴いていて、その殆どはフリー・ジャズ。私たち3人とも、常に色々な音楽に興味を持って、沢山聴いているの。

ーーライリーは裸のラリーズや灰野敬二の影響も受けているそうですね。

ライリー:私がノイズ・バンドでドラムをプレイし始めたのは、さっき話したFantasy Planetに住んでいたスートのメンバーだった友達がノイズ・ミュージックにハマっていたからなんだけど、彼が灰野敬二の大ファンだったの。その流れで裸のラリーズも好きになったのよ。

ーー普段どのように新しい音楽を見つけ出し、開拓しているんですか?

ルイス:殆どは友達のオススメ。こないだも友達とお互いプレイリストを作って交換し合ったんだけど、そんな感じで周りの皆と情報交換をしてるんだ。インターネットだと逆に情報がありすぎるから、人づてで絞られた情報を得るくらいが丁度いいのかもしれないね。

ーー音楽活動以外に何か別分野で活動していますか?

ライリー:私は陶芸をやってる。それから絵も描くの。

ルイス:俺も絵を描いたりスケッチをしたりする。でもやっぱり、ソングライティングが自分の中で大部分を占めているから、自分の創造力は殆どそっちに注がれていると思う。あとは、詩を書くのも好きだし、ウォーキングも好き。ウォーキングは、1日4時間くらい歩くことも多々あるよ(笑)。

ジェイムス:僕はバスケを見るのが大好き。あとは、僕も絵を描く。自分の創造力を使って何ができるのかを考えるのが好きだから、次に何をしようかしょっちゅう考えてるんだ。今はザ・グーン・サックスで忙しいから他のバンド活動はしていないけど、たまに友達と一緒にチェロを弾いたり、ジャムをしたりはしてる。演奏したいものを何も考えずにただただ演奏することも時々楽しむんだ。

ーールイスは以前ベルリンへ移住し映画館で働いていたとのことですが、現在はどこに住んでいるのでしょう?

ルイス:いや、もう映画館では働いてない。ベルリンへはセカンド・アルバムをレコーディングした後で引っ越したんだけど、あのアルバムをリリースしたあとツアーでヨーロッパに行って、俺はそのままベルリンに残ることにしたんだ。住んだのは半年くらい。でもバンド活動のために2018年の初めにまたオーストラリアに戻って、それ以降はバンドの拠点はブリスベンになった。ブリスベンには2年半いたけど、これから皆でロンドンに引っ越すところなんだ。映画館での仕事は恋しいよ。映画館での仕事だったら、いつだって戻ってもいいくらい(笑)

ーーパンデミック中はどのように過ごしていましたか?

ライリー:沢山ビデオを作ってたわ。あとは写真撮影とか、アートワークを考えたり。それを仕上げるのに一年くらいかかったの。

ーーサウンドエンジニアリングのディプロマも取得したそうですね。

ライリー:そうそう。それもやったわ。今回のレコーディングでエンジニアからすごくインスパイアされたから、私もディプロマをとりたくなって。しかも、そうやってちゃんと技術を習得しておいたほうが、将来もより安定するしね。

ーー最近ではワクチン接種を終えた人たちも増えてきたせいか、各地でフェスやライブが再開されて明るい兆しが見えてきました。状況が落ち着いたらやってみたいことは何かありますか?

ルイス:とにかくツアーがしたい。出来るだけ沢山の場所にいけたらいいな。あとは、休暇でイタリアに行きたい。俺、大人になってから長い休暇ってとったことがなくてさ(笑)。だから、イタリアでの休暇に憧れてるんだ(笑)4歳の時に行ったきりだから。