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ドイツのデュオ Milky Chance (ミルキー・チャンス) インタビュー

2019年に3枚目のアルバム『Mind the Moon』をリリースしたドイツのデュオ Milkey Chance (ミルキー・チャンス)。2013年のシングル『Stolen Dance』の大ヒットから7年、レゲエ、フォーク、エレクトロなどを融合した独自のサウンドは、リリースを重ねるごとに着実に進化を遂げている。デビュー以来、世界各地を飛び回り常に忙しい彼らだが、今回ボーカル、ギターを担当する Clemens Rehbein (クレメンス・レーバイン)がインタビューに答えてくれた。

ーー新作の話に入る前に、まずは Milky Chance について教えてください。日本のメディアのインタビューは今回が初めてですよね。バンド名はどのように決めたのですか?

2012年結成の Milky Chance だよ。楽曲作りを始めた頃から、それこそ Milky Chance 結成前から、バンド名候補をいろいろ考えていたんだ。それから何年か経って、YouTube に曲をアップすることになった時、唯一覚えていた名前がなぜか「Milky Chance」だった。心のどこかでずっと気になっていた証拠だと思ってバンド名にしたよ。

ーーベース、パーカッション担当の Philipp Dausch (フィリップ・ダウシュ)とはどうやって出会ったのですか?一緒に音楽を作ることになったきっかけは?

フィリップとは2010年に地元カッセルの高校で出会ったよ。入学してすぐの音楽の授業で、お互い知らない顔ばかりだからどんな感じの人がいるのかなってチェックしていたのを覚えてる。その日からすっかり意気投合して、放課後もつるむようになったんだ。音楽を演奏するのも日課になって、最初はジャムセッションをしていたけど、2週間後には他の友達3人も加わって5人組バンドを結成したんだ。

高校卒業までの3年間ずっと同じメンバーで演奏していたけど、卒業後はそれぞれ自分のしたいことに専念しようということになって。海外に行ったメンバーもいれば、カッセルから別の町に引っ越したメンバーもいたよ。結局地元に残ったフィリップと僕で活動を続けて、Milky Chance が生まれたんだ。

ーー音楽に夢中になったきっかけは何ですか?

12歳の時、ギターレッスンを受けていた友達にレッスンに誘われたのがきっかけだよ。レッスンを受けたその日からすぐにギターにハマって、とにかく一日中ずっとギターを弾いていた。だから学校の成績は下がる一方だったよ(笑)。

ーーギターの他にも楽器を演奏するのですか?

12歳で始めたギターは6年習い続けたよ。高校時代のバンドではずっとベースを担当していて、ベースのレッスンを受けたこともあったけど、ほとんどは独学で習得したんだ。ギターと同時期に始めたピアノも独学だよ。

ーー現在も地元のカッセルで活動されていますよね。カッセルというと、アートファンのなかには現代美術の国際展「ドクメンタ」を思い浮かべる人もいるかもしれません。カッセルについて教えてください。音楽シーンはいかがですか?

ドクメンタ期間中のカッセルは賑やかだけど、5年に一度だけだからね。それ以外はとても静かだよ。ジャンルごとの音楽シーンはちょこちょこあるけど、規模が小さいよ。

ーーさて、2019年11月にリリースされた3枚目のアルバム『Mind the Moon』についてお聞きします。レコーディングはいかがでしたか?

2019年2月にレコーディングを始めて6月に終わったよ。今回はオープンな雰囲気で制作していたから、スタジオに友だちやミュージシャンを招いてレコーディングしたのがすごく良かった。新しい楽器を使ったり、他のアーティストとコラボレーションをしたり、これまでやってこなかった新たな試みが詰まった作品になったよ。その反面、自分を制限するというか、作品を作りこみ過ぎないように気をつけたんだ。今作ではミニマルな曲作りにもう一度立ち戻ろうと思ったと同時に、僕たちが影響を受けているいろんなジャンルの音楽を全部盛り込みたいとも思ったよ。

ーーレコーディングで一番印象に残った点や作品で好きな部分は?

僕たちはとにかく曲作りが好きなんだ。スタジオにこもって、音楽で自分たちの世界を創造するのが大好き。メロディを作ったり曲を書いたりする時っていうのは、巨大な自由空間が目の前にバーッと開いて、そこにアイデアを全部放り込んでおくことができる。いろんな考え、いろんな感情、良いことも悪いこともとにかく全部。セラピーみたいな感じかな。僕たちにとって音楽を作ることはセルフケアに近いよ。  

ーー前作『Blossom』ではメロディを先に作って、それに歌詞を付けたと話していましたが、今回もそうでしょうか?歌詞でこだわった点はありますか?

僕たちの場合、ビートを作り始める前にすでに歌詞ができていることがほとんどだよ。コードやメロディに歌詞を付けることもあるけど、同時進行の時もある。今回はレコーディングがほぼ終わっている段階にもかかわらず、歌詞の一部を書き直したりもしたんだ。レコーディングの仕上げはノルウェーの海沿いにある景色が綺麗なスタジオで録音したよ。目の前に海が広がっていて、そこにいるのが本当に不思議な感じがした。海の近くという環境も今回の歌詞に影響していて、その時の気持ちも綴っているよ。 『Rush』という曲の「青い心の中へ 考えが沈みつづける 青い心の中へ ずっと(thoughts just keep on drowning in my blue mind, in my blue mind all the time)」 っていう箇所だよ。 

ーー今回は3組のアーティスト (Tash Sultana、Ladysmith Black Mambazo、Teme Tan) とコラボレーションしていますよね。

素晴らしい経験だったし、すごく刺激を受けたよ。これまでコラボレーションここまで力を入れたことはなかったから、とにかく楽しかった。アーティストが同じ空間に集まるとたくさんの魔法が起きるんだ!

ーードイツの近年の音楽シーンをみると、「第二のジャーマン・ニューウェーブ」とも称されるロックやポップバンドや、Hamburger Schule(1990年代に特に盛り上がりを見せたハンブルクのロックバンドを中心とした流派)に代表されるように、ドイツ語で歌うバンドもたくさんいます。そのシーンにおいて、Milky Chance は活動当初から一貫して英語詞ですよね。何か理由がありますか?

15歳で曲を書き始めたとき、ドイツ語で書こうなんて考えもしなかった。普段聴く音楽のほとんどがいつも英語だったから自然な流れだったよ。

ーーインスピレーションの源はファーストアルバムから変わってきましたか?

ほとんど変わっていないよ。でも人として、そしてミュージシャンとして日々進歩しているし、自分を表現する方法も良くなってきている。ミュージシャンとして活動している今でも、いろんなジャンルの音楽や、自分が今いる環境に影響を受けているし。自分が言いたいこと、物事についてどう感じているかを表現するのは以前に比べたら上手くなってきたという手ごたえはあるかな。

ーーデビュー以来ずっと忙しい日々だったと思います。特に、おととし2018年は103回公演をこなし、イングランドのノーマン・レコーズが発表した「一年で最もライブ回数が多かったミュージシャンランキング(ロック部門)」にもランクインしていましたよね。印象に残っているライブでの出来事は何かありますか?

ステージに立つのは本当にエキサイティングだよ。僕たちにとってライブとは音楽と人生を心から楽しむ場で、音楽への情熱を会場の皆と共有する場でもあるよ。僕たちの想いのすべてを込めた演奏をしているから、その想いがオーディエンスに届くようにっていつも願っている。オーディエンスは毎回本当に素晴らしいよ。

こんなにもたくさんの国をツアーで訪れることができるなんて、未だに信じられないくらい。これまでアメリカ、南米、ヨーロッパ、オーストラリア、南アフリカでツアーをしたけど、どこの国へ行ってもオーディエンスがライブに集まる光景を見ていると、ライブというのは平和そのものだし、人生の喜びを味わう場だと実感しているよ。音楽は、国に関係なく誰もが理解できる普遍的な言語だということもつくづく感じるよ。

ーーMilky Chance の音楽には独特のメランコリーが感じられると同時に、ダンサブルな曲が多いですよね。あなたにとって感傷的になる曲、踊りたくなる曲はありますか?

感傷的な時は、Ben Howard。踊りたいときは特に決まっていないけど、Polo & Pan、Claire Laffut、Whitney Houston、Christine and the Queens、Daft Punk、Marvin Gaye、Stevie Wonder とかが好きだよ。

ーー2020年の予定は?

年明けにまたツアーがスタートするからすごく楽しみだよ。2020年もライブが盛りだくさんだから、ほとんどライブの予定で埋まってしまいそう。ライブ以外だと、最近ブログ milkychange.com を立ち上げたところだよ。ツアーにはもちろん力を入れているけれど、ツアー以外の活動も追ってもらえるように作ったんだ。あと、実はすでに曲を作り始めていて今年中には新曲を発表できるはず!

ーー日本のファンに一言お願いします。

 
まだ日本に行けていないのが残念。地球は広いから、全部の国をツアーするにはまだまだ時間がかかりそう。来日公演はまだ実現していないけど、僕たちの音楽を聴いてくれて、応援してくれてありがとう!いつか会えるといいね!