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Jay Som、新作アルバム『Anak Ko』のメール・インタビューを公開!

Photo by Lindsey Byrnes

本稿は、ジェイ・ソムが今年8月にリリースしたセカンド・アルバム『アナック・コ』の、日本盤ライナー解説執筆のために行なったメール・インタビューである。残念ながら、本人からの回答がライナーの締め切りに間に合わなかったため、原稿に活かすことはできなかったのだが、短い内容ながら興味深い発言も数多く含まれていたため、こうして発表する場を設けていただけたのは嬉しい限りだ。

ジェイ・ソムは、フィリピン系アメリカ人、メリーナ・ドゥテルテによるソロ・プロジェクト。「赤ちゃんの名前ジェネレーター」で作成した(!)、“Victory Moon(勝利の月)”を意味する名を冠する彼女は2015年頃から本格的に活動を始め、自身のBandcampに音源をアップするようになる。それらをまとめた初期音源集『Turn Into』を経て2017年3月にDouble DenimとPolyvinylよりリリースされた、実質上のファースト・アルバム『Everybody Works』で大きな注目を浴びた彼女。ダイナソーJr.やソニック・ユース直系の楽曲に加え、テーム・インパラやヨ・ラ・テンゴ、ピクシーズといった、彼女がフェイヴァリットに挙げているアーティストの楽曲はもちろん、アルバム制作中にヘヴィロテしていたというカーリー・レイ・ジェプセンからも大きな影響を受けたという、フックのあるメロディが随所に散りばめられているのが特徴である。

そして今回リリースされた『アナック・コ』は、タガログ語の表現で「私の子供/我が子」を意味するタイトルが掲げられている。前作同様、まずは自宅でデモ・レコーディングを行ったあと、今回はツアー・メンバーでもあるザッカリー・エレッサー、オリヴァー・ピネル、そしてディラン・アラードとともにスタジオに入り、バンドによるアンサンブルをレコーディング。さらに、友人であるヴェイガボンのレティシア・タムコ、チャスティティ・ベルトのアニー・トラスコットとジャスタス・プロフィット、ボーイ・スカウトのタイラー・ヴィックをゲストに迎え、ストリングスやペダル・スティールなどの楽器もオーヴァーダビングを行なっている。そのため、前作よりも楽器の数が増え、音像も立体的になった。

本作をリリースする直前、今年のフジロックで初来日を果たした彼女。その美しいメロディとシンプルかつローファイなバンド・サウンドで、初見のオーディエンスを大いに魅了したのも記憶に新しい。次は是非、単独での来日公演を期待したいところだ。

──もともとは、どんなきっかけで宅録を始めたのですか?

「小学校4年生の頃から、バーンズ・アンド・ノーブル(アメリカ最大の書店チェーン)のCD売場を覗くのが楽しみになってね。お金を貯めては、いわゆる『ジャケ買い』ってやつを繰り返してた。そうこうするうちに『オルタナティヴ・ミュージック』というジャンルがあることを発見し、そこでデス・キャブ・フォー・キューティに出会ったのが全ての始まりね。『ワオ!どうやったらこんな音を作れるの?』と思って自分でも試すようになったわけ」

──あなたの楽曲にはコクトー・ツインズやスミス、サンデイズ、プリファブ・スプラウト、ピクシーズなどの影響を強く感じます。実際のところはどうですか?

「まさしく今、あなたが挙げてくれたアーティストから影響を受けてる。他にはスティーヴン・スタインブリンク、オールウェイズ(Alvvays)や パラモアなど、ツアーを一緒に回って親しくなったバンドからの影響もあるはず。それからR&B、ファンクやジャズからも、かなり影響を受けているわ」

※彼女は一時期ジャズに傾倒し、その道の音楽学校へ進むことも考えたが、ソングライティングやレコーディングを追求するための大学へと進学した。

──ファースト・アルバムの頃から、ベースラインが特に印象的です。あなたの楽曲の中で、ベースはどのような役割を担っていますか? また「Superbike」のミュージック・ビデオではヘフナーのヴァイオリン・ベースを弾いていますが、ポール・マッカートニーは好きですか?

「ありがとう! ベースは演奏するのも、レコーディングするのも一番好きな楽器よ。私の楽曲の中で、最も根幹を担うパートと言えるわね。本格的にギターを弾くようになる前、10代の頃に組んでいたいくつかのバンドではベースを担当していた。もちろん、ポールやビートルズは好きだけど、熱烈なファンっていうほどでもないかな」

──今作『アナック・コ』のコンセプトと、過去の作品との違いについて教えてください。

「『アナック・コ』はこれまでと同様、私の人生で今起こっていることを丸ごと写し取ったスナップショットのようなアルバムなの。これまでと違うのは、前作『エヴリバディ・ワークス』の後に、音楽的にも個人的にも重要な転換期を迎えたことね」

──今作で、宅録ではなくバンド・レコーディングを行った経緯を教えてください。そのことによって、音楽はどのように変化しましたか?

「いい加減、自分が作ったリズムを聴くのに飽き飽きしてたから、才能溢れる友人に手伝ってもらうのがベストだと思ったの。おかげでレコーディングでもプレイでも、自分の凝り性な部分を手放すことができて、とても心地よかった。それと、今までのアルバムでは使ったことのない楽器も導入してみたかった。楽曲に新たなテクスチャーを加えるためにね」

──個人的に“Superbike”は、今年上半期ベストソングだったのですが、この曲はどのようにして生まれたのでしょうか。

「あの曲は、オープンGのチューニングで色々実験していた時に思いついたの。ギターとドラムを入れたデモを録音して、そのまま1年くらい寝かせておいた。で、2月にジョシュア・ツリーへ行った時、数本のギターとベース、ドラムとシンセを加えて仕上げたのが、アルバムに入っているヴァージョンよ」

──以前に比べると、シューゲイズ的なアプローチだけでなく、例えば「Crown」や、「Devotion」の後半など、オーセンティックなギター・ソロも増えましたよね。この辺りの変化はどのようにして訪れたのですか?

「私はレコーディングもライブ・セットも、ギターワークは常にシンプルにしておくことが好きなの。ラウドとソフトの両面が交差するダイナミクスを大切にしている。そう、ピクシーズみたいにね!」

──最近インディシーンでは、ミツキやササミなどアジアの女性アーティストの活躍が目立っています。そのことについてはどんな見解をお持ちですか?

「私は、非白人男性に対して表現するための場が与えられてもいい頃だと考えている。例えば、私にとって最初の全国ツアーをミツキと一緒に回ったとき、非白人女性のオーディエンスが90パーセントを占める会場に遭遇したことがあるの。彼女たちのために生み出された空間が、そこには存在していたわ。私が育ってきた時代を考えるとあり得ないことね」

インタビュー:黒田隆憲(SHOEGAZER DISC GUIDE監修)