interview :
ベルリンのインディーロック・バンド Isolation Berlin、3rdアルバム『Geheimnis』インタビュー

Photo by Noel Richter

2021年10月8日に3枚目のアルバム『Geheimnis』をリリースしたベルリンのオルタナティヴ・ロック・バンド、Isolation Berlin (アイソレーション・ベルリン)。トビアス・バンボーシュケ(ボーカル、ギター)、マックス・バウアー(ギター、キーボード)、ディヴィッド・シュペヒト(ベース)、ジミヨン・コスタ(ドラム)からなる4人組バンドだ。

前作『Vergifte dich』から実に3年半の時を経てリリースされた今作は、ストリングスや巧みなアレンジが加わることでこれまで以上にサウンドの深みと表現力が増し、更に飛躍したアルバムとなっている。ポストパンク、ポップ、サイケデリック、シャンソンなど、時代やジャンルを自由に飛び越える軽やかさも感じられ、「ロックミュージック」と一括りにできない独自のハイブリッドなサウンドへと見事に昇華させている。

自分の脳が最大の敵となり自分を追い込んでいくような、ネガティブな思考や恐怖心についての「Geheimnis」、ティーン特有の疎外感や嫌悪感、承認欲求を歌う「Ich hasse Fussballspielen」、年齢を重ねたエンターテイナーが成功の後に味わう喪失感についての「Enfant perdu」——トビアスが書く歌詞は内省的で陰鬱ではあるが、そこには常にユーモアやピュアネスといった温かく優しい光が差し込んでいる。

Photo by Noel Richter

リードシンガーであり作詞を手がけるトビアスと、作曲と編曲を手がけるマックスに今回Zoomでインタビューを行った。アルバム制作当初からリリース直前まで波乱続きだったという制作秘話、2人が敬愛するドイツが生んだ「パンクの母」ことニナ・ハーゲンとのエピソードなどについて語ってくれた。(インタビュー収録日:2021年10月18日)

ーーアルバムリリースおめでとうございます。10月前半にベルリンでリリースイベントを含めライブ2本を終えたところですよね。久々のライブはいかがでした?

トビアス : 2年ぶりに味わうライブの雰囲気は最高だった。野外のステージで開放的だったし、オーディエンスが一緒に歌ってくれたのも嬉しかったよ。アイソレーション・ベルリンの活動とは別に、詩人としても活動していて、新作を10月に発表したばかりなんだ。その出版記念イベント(朗読+ライブ)として、11月末までマックスと一緒にドイツ国内を周っているよ。

ーーそんな中今日はお時間を取っていただきありとうございます。今作『Geheimnis』は「呪われた」アルバムだということですが、どんな意味なのでしょうか?

マックス : 元々ベルリンにある友人のスタジオでレコーディングする予定だったんだけど、いろいろあって彼がスタジオを手放すことになってね。だから急遽同じ敷地内の一室に自分たちでスタジオを作ることになったんだ。もちろんコロナ禍の影響も大きくてごちゃごちゃな状況だったから、アルバムのアイデアを出し合っても全然まとまらなくて。なかなか本腰を入れて制作に取りかかれなかったんだ。

トビアス : 歌詞のアイデアはいろいろ溜めていたけれど、アルバムという一つの大きな物語としてどうまとめたらいいのかまったく分からなくて。かなり悩んでキツい時期が続いていたよ。試行錯誤の繰り返しで、結局完成までに1年ぐらいかかった。

マックス : 苦難は最後まで続いて、リリースの1週間ぐらい前まで現実問題として無事にリリースできるかどうかの大変な状況だった。実はLPをプレスするのにも原盤の原材料が工場に入ってこなくてプレスできなかったんだ…。

トビアス : スタートからずっと悪夢が続いていた感じだったね…(笑)。そういう意味での「呪われた」アルバムってこと。でも無事完成してよかったよ!!

ーー急遽自分たちで用意したスタジオはどんな雰囲気ですか?

マックス : ベルリン最北部のブーフっていう町にあるんだ。夜遊ぶ場所はないけれど、自然豊かで静かな場所。スタジオとして使った建物は昔病院向けのクリーニング屋だったみたいで、見た目は全然音楽制作スタジオっぽくないよ。朝10時にスタジオに行って夕方6時ぐらいまで作業をするスタイルで、毎日のように通っていた。

トビアス : 亡き祖母からもらった大量の本を棚に並べて、図書館みたいなスペースを作ったよ。ソファーに座ってのんびり詩集を読む時間が好きだった。スタジオにはキッチンもあるし、いろいろ揃っていて便利なんだ。

ーー過去の作品と比べると、今作は作曲と編曲にたっぷりと時間を費やすことができたそうですね。

マックス : こだわった理由はいろいろあるけれど、今作ではとにかくこれまでやってこなかったようなサウンドを試したかった。歌詞の内容も曲によって違うから変化をつけたかったんだ。方向性やアレンジを変えたりして一曲一曲相当こだわったよ。あとはパンデミックの影響で時間があったのも大きな理由だね。過去の作品はスタジオを借りて2~3週間で完成させなければいけなかったけれど、今回は時間の制限やプレッシャーがなかったから、たっぷり1年かけて仕上げることができたよ。

ーーサウンドにこだわったという今作ではストリングスの存在も大きいですよね。参加しているQuartetto Berlineseはクラシックのミュージシャンですか?

マックス : 実は…実在するカルテットじゃないんだよ。僕たちが音楽制作ソフトで作ったサウンドだから僕たちのこと(笑)。ジョークでクレジットに入れたんだ。本物の弦楽器のミュージシャンにお願いしたかったけれど、パンデミックのせいで自分たち以外の人をスタジオに入れるのが難しい状況だったからね。

ーーさきほどの話にもあったように、曲によって歌詞も様々ですよね。収録曲「Ich hasse Fussballspielen」(=僕はサッカーがきらい)はどのように生まれたのですか?ポップでローファイな曲調でビデオも可愛らしいですが、「みんな死んじゃえばいいのに。でも、せめてもう少し僕に優してくれたらいいのにな」という内容はなかなかダークですよね。

トビアス : 12歳ぐらいの自分っていう設定で、当時抱いていた疎外感やネガティブな気持ちを歌った曲だよ。周りの人に対して怒りや敵対心を抱くと同時に、愛されたいっていう矛盾した感情。この曲に限らず、ダークな内容であってもどこかにピュアな部分やユーモアを含めるようにしているよ。

ーー今作にも収録されているシングル「(Ich will so sein wie)Nina Hagen」(=ニナ・ハーゲンになりたい)はニナの誕生日3月11日にリリースされ、ニナへの愛が感じられます。実際に彼女に会えましたか?

トビアス : 残念ながらまだ会ったことはないんだ。でもリリース後にメッセージが届いた。曲を気に入ってたし、バンドのことも応援してくれているよ。

ーーこの曲のYouTubeのコメントには、ニナ本人(?)もコメントを投稿していて盛り上がっていましたね!

トビアス : 嬉しかったよ。コメントの意味はさっぱり分からないけれど…(笑)。ユーモアたっぷりの彼女なりのジョークだね。特に僕とマックスはニナの大ファンなんだ。ジャンルにこだわらず自分がやりたいことを自由にやればいいんだって思わせてくれる。一つのスタイルに囚われない彼女の姿勢は、僕たちの曲作りにも影響を与えているよ。

ーーマックスは初期NYパンク・シーンの最重要人物リチャード・ヘルにも影響を受けているそうですが、そのあたりはニナのパンクのアティチュードと通じるものがありますよね。

マックス : 16か17歳のときにリチャード・ヘルのNYパンク・シーンのドキュメンタリー映画を観たんだ。リチャードが小さな村からNYという大都会に出てきたっていう話に触発されて、学校を辞めて18歳の時にベルリンに出てきた。現代と60年代とでは状況が違うから彼と同じようなことはできないけれど、その生き方に憧れた。僕自身、ストリングスや編曲のやり方を誰かから教わったわけじゃないんだ。「誰に何を言われようが構わない、自分たちがやりたいことをやる」っていうパンクのアティチュードは根底にあると思うよ。だからミキシングもレコーディングも他の人に頼らず自分で手がけたんだ。自分たちで自分の音楽をコントロールしたいっていう想いは常にあるね。

ーーニナのアルバム『Nina Hagen Band』はトビアスがご両親のレコード棚で見つけて以来気に入ってずっと聴いているとか。

トビアス : 『Nina Hagen Band』は父が母に出会った頃に聴かせた最初のレコードなんだ。ロマンチックでしょ。母は作品を気に入っていなかったみたいだけど(笑)。

ーーところで、今回もアーティストのヤニック・リーマーがアートワークを担当していますね。

トビアス : ヤニックとは7年間一緒に住んでいたけれど、2か月前に引っ越したんだ。彼はベースのディヴィッドと幼なじみでね。彼の作品はランダムじゃなくて、アルバムのコンセプトやバックストーリーをちゃんと把握したうえで丁寧に描かれているよ。

マックス : ファーストアルバムの時は僕たちが音楽制作している横で描いていたね。ペインティングやドローイングのほかに、シングル「(Ich will so sein wie)Nina Hagen」のカバーになっているニーナのマスクも作るマルチなアーティストだよ。ヤニックのアイデアやスタイルが好きだし、僕たち自身、彼と一緒に成長している感じ。

ーー来年3月にはドイツ国内を中心に周るツアーの予定があります。しかもほぼ毎日公演があり怒涛のスケジュールですね。まだ半年先ですが、ツアーまでは何をして過ごしますか?

トビアス : 練習しなきゃ(笑)!レコーディングの時にスタジオで演奏したきりで、ライブ用のアレンジはまだ全然練習していなくて。今回はしっかり練習して完璧なライブにしたい気持ちが強いんだ。1か月間ほぼ毎日詰まっているけれど、あまり苦じゃないよ。むしろこれまでみたいに間隔が空くほうが大変だからね。1か月集中して燃え尽きるほうが精神的にも体力的にも楽なんだ。

マックス : 3月以降の予定はまだ決まっていないけれど、来年はもっとツアーができるといいな。コロナ禍でずっとライブができなかったから、とにかくいろんなところに行きたいっていう気持ちが強いよ。

ーー2019年2月には東京、大阪で初来日公演を行いましたが、是非また日本にも来てほしいです!

トビアス : あの時はオーディエンスがよかったね。音楽そのものを味わって耳を傾けてくれている感じが伝わってきたよ。

マックス : 日本でのライブは初めてだったから、公演直前まで「日本のお客さんは本当に来てくれるのかな…1人も来なかったらどうしよう…」ってずっと不安だったけど、そんな心配は無用でたくさんの人が来てくれて嬉しかった。

ーーライブと言えば今作のLP/CDの限定版には、ライブアルバム『Live in Ho Chi Minh City』が特典として付いてきます。2018年秋に行われた東南アジアツアーのなかでも、このベトナム、ホーチミンでの公演を選んだ理由は?

マックス : ホーチミンの会場は本格的なコンサートホールで、音響設備も整っていてレコーディングできたからライブアルバムにしたんだ。ドイツの文化機関ゲーテ・インスティテュート主催のベトナムツアーだったから、ドイツ語を勉強しているオーディエンスが多かった。ベトナム以外にマレーシアやフィリピンも周ったけれど、特にベトナムのオーディエンスの熱狂には圧倒されたよ。

トビアス : 僕がこのライブアルバムで好きなのは「リアルな」空気感が収録されていること。クレイジーな感じが伝わってくるから、リスナーにもそれを楽しんでほしいな。

取材協力: 山根裕紀子

Isolation Berlin
『Geheimnis』

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