interview :
突き抜けた才能とDIY精神溢れるシカゴ発の3人組 Horsegirl、デビューアルバム・インタビュー

Photo by Cheryl Dunn

6月3日に待望のデビュー・アルバム『Versions of Modern Performance』を名門〈Matador〉からリリースした米シカゴ発の3人組バンド、Horsegirl(ホースガール)。ソニック・ユースやダイナソー Jr.を手がけてきたジョン・アグネロを共同プロデューサーに迎えた今作は、彼女たちが愛してやまない80年代、90年代のオルタナティブ・ミュージックの影響が感じられる一方で、「進化しながら少しずつ新しい要素を加えていきたい」と語る彼女たちらしい新鮮かつユニークな印象を残した一枚に仕上がっている。

イリノイ州シカゴでは、若手ミュージシャンに音楽制作を学ぶ機会を提供し支援するプログラムが充実しており、そのなかの青少年芸術プログラムで出会い意気投合したホースガールの3人。ペネロペ・ローウェンスタイン(ギター、ボーカル)、ノラ・チェン(ギター、ボーカル)、ジジ・リース(ドラムス)が揃って答えてくれた今回のインタビューでは、独自の発展を遂げてきた現行のシカゴのオルタナティブ・ロック・シーンについても語ってくれた。サウンドだけでなくアートワークまですべて自分たちで手がけるホースガールのDIY精神に溢れたアルバム制作エピソードをお楽しみください。

質問作成・文:Indienative / 通訳:原口美穂

――皆さんはシカゴの青少年芸術プログラムへの参加がきっかけで知り合ったそうですね。それ以前から楽器は演奏していましたか?

ペネロペ:私たち全員、音楽のバックグラウンドが違うんだよね。私は小さいころからずっとギターをプレイしていたし、ノラは私たちが知り合う数年前から演奏を始めてた。で、ジジは私たちと出会ってから楽器を始めたの。

――音楽的バックグラウンドは違うとのことですが、Flying Nun Records をお気に入りのレーベルに挙げていたり、ソニック・ユースやベル・アンド・セバスチャンが好きだったりと、80~90年代のインディーロックに影響を受けたという印象があります。どのようなきっかけでそのあたりの音楽を聴くようになったのでしょうか?

ペネロペ:みんなインディーロックが好きで、それぞれにそういう音楽に興味は持っていた。例えばジョイ・ディヴィジョンみたいなバンドを、ポップ・カルチャーを通して知ったりね。けど、3人の仲が深まると、皆で一緒により本格的にDIYミュージックを探求するようになったの。そのためにたくさん時間を費やすようになった。YouTubeでソニック・ユースのパフォーマンスや過去のインタビューを何時間も見たり、グループチャットでずっとテレビジョン・パーソナリティのライブの話をしたり。音楽を発見しあうのって、私たちの友情の一部なんだよね。3人の友情と共に、私たちの音楽のテイストもどんどん広がっていった感じ。

――バンド名の由来は?

ペネロペ:私がまだバンドに入っていなくて、3人で一緒に演奏もしてない頃、バンドに入ることを夢見て、私がバンド名の候補を思いついてはメモしてリストにしていたの。で、私とノラが一緒に演奏し始めた時、オープンマイクでパフォーマンスするために名前が必要になって、そのリストの中からランダムに「Horsegirl」を選んだ。でもその時は、それはその時だけの仮のバンド名で、ちゃんと改めてバンド名を決めるつもりだったんだけどね。気づいたらその名前がそのまま定着しちゃったの(笑)。でも、私はそれでよかったと思ってる。なんだか、バンド名の方が私たちを選んだって感じがして。あまり考え過ぎなくて逆によかったんじゃないかな。

――他に候補に挙がった名前はありましたか?

ペネロペ:もしかしたら今後他のプロジェクトなんかで使うかもしれないから、秘密にしてる(笑)。でも、「Horsegirl」の他に候補に上がったのは「Egg Daughter」だったな(笑)。

――青少年芸術プログラム界隈では独自のアンダーグラウンド・ロックシーンが存在するそうですね。シカゴの最近の音楽シーンでおすすめのバンドはありますか?

ジジ:シカゴには、私たち自身もワクワクするような音楽を作っている友達のバンドがたくさんいるんだ。その中でも特に活躍してるのは、Lifeguard、FRIKO、Dwaal Troupeかな。あとPost Office Winterも。

――シカゴの音楽シーンと他の地域の音楽シーンに違いはあると思いますか?

ジジ:シカゴの音楽シーンって、ミュージシャン同士のコミュニティがすごく強いと思う。シカゴを出てから、まだあそこまで強いコミュニティに出会ったことがないから。もしかしたら、まだ私がそういう人たちに出会えていないだけかもしれないけど。シカゴの音楽シーンのアーティストは、皆本当にマインドセットが似ていて、お互いに情報を与えて支え合ってる。そして、そのスケールがすごく大きいんだよね。

ペネロペ:あと、私たちも含め、さっき名前が出たようなバンドの絆が強いのは、私たちが若いからっていうのもあると思う。私はまだ高校生だし、21歳になってもない私たち世代で面白くてユニークな音楽を作ろうとしてるのって結構スペシャルだと思うから。だからお互い気も合うし、親友にもなれるの。

――さて、今回は初めてのアルバム制作となりましたが、新たに学んだことは何ですか?

ジジ:仕事として音楽を作る上での自分たちの限界というものを今回のアルバム制作で学んだと思う。毎日何時間も音楽制作に時間を費やすなんてことはこれまでなかったし、それは初めての経験だったから、やっぱりすごく疲れた。悪い意味ではなくて、それくらい力を注いだってことね。自分たちにとって今回のアルバム制作は、とても良い初めての経験になったと思う。レコーディングの仕方とか、作業を進める上でのお互いの役割とか、本当に色んなことを学んだから。

――良い意味で、ただ楽しいだけではなく苦労も学んだということ?

ジジ:そうそう。

ペネロペ:そのぶん達成感も大きかったしね。

――最も大変だったことは何でしたか?

ペネロペ:私はスケジュールが大変だった。私って普段は朝方なの。8時までには絶対起きて、12時前にランチを食べる。夜ご飯の時間も早いしね。でも、レコーディング期間は、その日の作業が終わるまでずっと仕事をして、夜ご飯を食べるのは22時とか23時だった。体内時計と全然違うスケジュールだったから、私にとっては時差ボケの中でレコーディングをしてるみたいな感覚だったの(笑)。

ジジ:私は、短期間であんなにドラムを叩いたのは初めてで、それが大変だった。最初の5日間、それ以外には他に何もしないで、良いテイクが録れるまでとにかくずっとドラムを叩かないといけなかったから。ドラムを叩いてあんなに汗をかいたことはなかったし、筋肉痛になったのも初めて(笑)。
あと、プロデューサーがメトロノームのアプリを持ってたんだけど、そのメトロノームにきっちりドラムを合わせないといけないのは難しかったな。8テイクとったのをコントロームルームで聴いたんだけど、「まだちょっとだけ早すぎるな」とか言われた時は、汗だくでクタクタで、爆発しそうだった(笑)。

ノラ:2、3週間、休みなしでずっと同じことをするっていうのは、もちろん楽しい経験でもあった。でも最後の方になってくると、結構いっぱいいっぱいになっちゃって…。そろそろ休みたいなって思ったりもした(笑)。大変だったけど、既に次のレコーディングが楽しみ。それくらい素晴らしい経験だったからね。

――今回レコーディングしたスティーヴ・アルビニ所有のスタジオ Electrical Audio は、たくさんの機材や楽器が自由に使える環境だったそうですね。「スタジオにあるたくさんのリソースが使えるなんて知らなかった。だから、レコードを作るということになった時、その作品があまり洗練されすぎないようにするということはとても重要だった」と話していましたが、あえて洗練されすぎないサウンドを作るためにどんなことを工夫しましたか?

ノラ:今回のレコードを作る上で、ライブサウンドっていうのは私たちにとって大切な要素だった。私たちは長いこと、リリースではなくDIYスペースでパフォーマンスをすることで活動を重ねてきたでしょ?未成年だから、ちゃんとした会場でパフォーマンスすることがまだできなかったっていうのもあって。つまり、リスナーのほとんどが、私たちの音楽をライブを通して知って、ライブでのみ私たちの音楽を楽しんできた。だから、どんなにスタジオという洗練された環境でレコーディングするとしても、そのライブ感を守るということは私たちにとって重要だったの。それが、私たちらしいサウンドを作っている要素の一つだと思うし。

ペネロペ:そのために、例えば「Live and Ski」って曲では、書いている時からベースを全く入れなかった。私とノラはギターを弾くし、ジジもドラムを叩くからベースを加えられなくて。で、後になってレコーディングの時にベースを加えることもできたんだけど、いざやってみるとすごく不自然に感じちゃって、ベースは入れずにオリジナルのままでいくことにしたの。「誰かにベースを弾いてほしいなら、 Matador がその費用を出してくれるよ」って言われたけど、断った(笑)。ベースを入れない方がしっくりきたんだよね。2テイクだけとって、その後はあまり考えすぎないようにした。ジジがタンバリンを乗せようともしたんだけど、それもなんか不自然に感じてやめることにしたの。

――デビューアルバムが完成した今、バンドとして心境に変化はありますか?ますます活動が楽しくなってきたとか?

ジジ:楽しいのは前からずっと変わらない。楽しいっていうのは、今でも活動の大部分を占めてる。でももちろん、変化した部分もあるよ。何かを制作してリリースするということは、大きなことなんだなと思う。例えば、今まではメールをこんなにチェックする必要はなかったし、自分たち以外の人たちに自分たちが何をしようとしているかを説明する必要もなかった。あと、他の人たちが自分たちが何を作るかに注目してるっていうのも今までにはない状況だったし。

ペネロペ:こうして日本のメディアからインタビューを受けてるっていうのもクレイジーだしね。

――今回のアルバムを一つの単語で表すとしたらどんな言葉が思い浮かびますか?

ペネロペ:3人一つずつ言ってどれか決めようか。じゃあジジから。

ジジ:私はAWESOME(カッコいい、やばい)。

ノラ:ジジっぽい(笑)。

ジジ:MODERN(モダン)もよくない?

ペネロペ:私はPUNKかなって思った。アルバムをレコーディングしてた時にたくさんパンク・ミュージックを聴いていたし、パンクっていうアイデアにもインスピレーションをもらってるから。でも、サウンドがパンクなわけじゃないからちょっと違うかな。

ペネロペ:今のところ、カッコよくてモダンでパンク!

ジジ:もう一つ加えさせて!ENTERTAINMENT(エンターテイメント)。全部で4つになっちゃった(笑)。

――音楽だけでなくビジュアルアートのデザインも3人で手がけているそうですね。散りばめられたコインが印象的なジャケットのアートワークも手作り感が出ていますね。

ノラ:ペネロペの家にあるスキャナーを使って、色々やってみてあのデザインになったの。私たち、Life Without Buildingsのファンで、特に『Any Other City』のアルバムジャケットが大好きなんだけど、あのアルバムジャケットにコインが載ってて、それが写真じゃなくて本物のコインに見えるんだよね。それで、私たちもスキャンしてみることにしたの。

ペネロペ:マッチもスキャンしたよね。

ノラ:そうそう。(『Any Other City』のジャケットみたいに)マッチもスキャンしてみたんだった。とにかく、『Any Other City』みたいな感じのジャケットにしたいっていうのが明確なアイデアだったの。そのあとそれに加えてスクラップブックみたいなアイデアも思いついて、「Horsegirl」って書いてある紙を切って貼り付けて、その周りにコインを散りばめた、っていうわけ。

ペネロペ:ジャケットのあの文字はノラが書いたんだけど、レコードの中身のライナーノーツも私たちが書いたんだ。レコードのジャケット、裏側、中身、全てに書いてある文字は私たちの手書きなの。そっちのほうが楽しいかなって思って。後ろのカバーは、私のセーターをスキャンしたんだ。今回は私のスキャナーが大活躍したの!

――そういったDIY精神は「World of Pots and Pans」のMVにも表れていますよね。OHPを使っていますが、そのアイデアはどこから生まれたのですか?

ノラ:「World of Pots and Pans」用のリリックビデオを作ることになったんだけど、私たちってあんまりリリックビデオにこだわりがなかったの(笑)。曲を聴いてる時って歌詞を聴いてるわけだし、それをわざわざビデオで見る必要ってあるのかなって…(笑)。

ペネロペ:そうそう。あんまり意味ないよね(笑)。

ノラ:とにかくスクリーンの中で文字を見せていけばいいと思ったんだけど、それだけでは面白くないから、何か面白い見せ方はないかなって考えた。で、私が学校でOHPを使ってたから、あれを使ったらクールかもって思ったの。学校のプレゼンでは使ってたけど、アートフォームとして使う人たちもたくさんいるって、それまで知らなかったんだよね。周りに聴いてみたら、実験的なビデオ作品なんかにOHPが結構使われてて、面白そうって思った。いろんなカラーのプラスチックを使ったり、上に水を置いて、水の動きをスクリーンに映し出したりする人もいるらしくて。だから私たちも色々試して、自分たちのやり方でやってみることにしたの。あと、最初から最後まで止めずに一気に撮るっていうアイデアも面白いと思った。それであのビデオができあがったんだ。

――即興のように見えますが、かなり練習したのでは?

ペネロペ:あのビデオは2テイクだけで完成したの。誰がどの歌詞を置くかっていうのはあらかじめ計画してたけど、もちろんいくつか失敗もして、それはそれで魅力があると思って残すことにしたの。そういう意味でもあのビデオは面白いと思う。私たちのリアルタイムの実際の動きが観られるから。あの時は、すごく良いクリエイティブの化学反応が生まれた。撮影場所に入って、何をしたいか現場の皆に説明して、すぐ撮影に入ったんだけど、すごくスムーズで、あっという間に終わったの。あんなに早く撮り終わったビデオ撮影は初めてだった。

――元から芸術分野にも興味があったり、自分の手で何かを作ることが得意だったのでしょうか?

ノラ:私たち全員が音楽以外のアートも大好きだし、ビジュアルも自分たちで考えてる。

ペネロペ:芸術系は何でも好き。もちろん音楽がメインだけど、他のことを試してみるのも楽しいし、世界が広がると思う。

ジジ:そうだね。あと、これは私だけかもしれないけど、昔は何かを作ることに対してシャイだったけど、バンドに入ったことでもっと自信がついたと思う。皆それぞれ色々なテイストを持っていて、お互いの意見をリスペクトし合っている。皆の意見を反映しながら一緒になって何か一つのものを作り出すという経験のおかげで、もっと心地よく物作りができるようになった気がするんだよね。これに関して2人がどう思うかはわからないけど、少なくとも私はそう思う。

ノラ:私も同感!

ジジ:バンドにいることで、アートをもっと楽しむことができてるって感じる。

――皆さん自身もZINEを制作していますが、日本のシンガー・ソングライター大和那南のZINE『Moderns』のインタビューに登場していたのも印象的でした。


ペネロペ:彼女から私たちにコンタクトを取ってくれたの。連絡をもらった時は、3人ともすごく興奮しちゃった。ZINEと一緒に色んなものをセットを送ってくれたんだけど、カードとか色々入ってて、ホントにクールなものばかりだった。今も私のスマホケースに入れてるんだ。

ジジ:私は壁に貼ってる。

ペネロペ:あれは最高だったな。しかも、日本からコンタクトがあったのは初めてだったし。「どうやったら私たちの音楽が日本まで届くの!?」って皆で嬉しくなった。

――インスピレーションの源となっているお気に入りの映像作品や本を教えてください。

ジジ:これは私の個人的なオススメなんだけど、ドキュメンタリー映画『Some Kind of Heaven』。まだ観てなかったら観てみて!絶対気に入るから。フロリダにある世界最大の退職者コミュニティの話。バンド全員が気に入ってるのは、タイトルはさっきのドキュメンタリーと似てるけどちょっと違う、メタリカの『Some Kind of Monster』(笑)。こっちのドキュメンタリーもすごく良いよ!

ノラ:私が好きなのは、最近ジジと一緒に映画館で観た『素晴らしき映画野郎たち(American Movie)』っていうドキュメンタリー。ホラー映画を作ることに夢中になってるウィスコンシン在住の男性の話。彼の苦悩についての映画なんだけど、見ていてすごく微笑ましくもあって、出てくる人たちがみんな面白いの。皆すごく人間らしくて、あれはフィクションだと作れないだろうなって思う。

ペネロペ:私もノラと同じ作品って言おうと思ってた。彼は間違いなくアーティストなんだけど、アーティストとしての彼の目標を達成するのは絶対不可能な環境に住んでる。でも、その様子が見ていてすごく心温まるの。ミュージシャンのドキュメンタリーを見るのも大好きだけど、たまに音楽と関係のないアーティストの様子を見るのもすごく面白い。

――最後に、今後の展望を教えてください。

ペネロペ:今はアルバムをやっと完成させたところで、そのために長い間時間と労力を費やしてきた。だから、まだほっと一安心している状態なんだよね。でもすぐに次のレコードのことを考え始めると思うよ。自分たちが持っている可能性を、これから全部試していけたらいいな。2人はどう?

ノラ:長く活動を続けて、いろんなことに挑戦できたらいいな。私自身、好きなバンドのディスコグフラフィを見るときに「このアルバムはこんなだったな。あのアルバムはあんなだったな」って思いながら振り返るんだけど、ホースガールも彼らみたいにいろいろなアルバムを作るバンドになれたらいいな。

ジジ:2人に賛成。進化しながら、少しずつ新しい要素を加えていきたい。いきなりじゃなくて、それをじわじわと長いプロセスで続けていけたらいいな。