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マス・ロックトリオ COVET、最新アルバム『Technicolor』インタビュー

変幻自在のタッピング・マスター Yvette Young (イヴェット・ヤング) によるエモーショナルな超絶ギターと、変拍子かつテクニカルなグルーヴによるマス・ロックトリオ COVET (コヴェット) がニューアルバム『Technicolor』を 6/5 リリース!日本盤にはボーナストラックとして、アコースティック2曲を含む全12曲を収録。

収録曲「farewell」のMVを公開!

現代ギター・ミュージックの最前線を往くコヴェットがニュー・アルバム『テクニカラー』を完成させた。新世代タッピング・クイーンの異名を取るイヴェット・ヤングが率いるコヴェットは、テクニカルでリリカルな音楽性で支持を得てきた。

2018年11月にはポリフィアとの来日公演も実現、新作ではインストゥルメンタルを中心にしながらヴォーカル入りナンバーもフィーチュアして、さらに深みを増したサウンドで魅せてくれる。

新型コロナウィルスのせいでツアーには出られないけど、新曲を書いたり、エフェクトを試したり、レコーディングの技術を学んだり…そうすることで、自分の音楽を豊かにしていきたい」色とりどりの『テクニカラー』のサウンドについて、コヴェットに語ってもらった。

アルバム『Technicolor』のストリーミング

ーー『テクニカラー』の音楽性について、教えて下さい。

色彩豊かで、少し懐かしい響きのあるアルバムにしたかった。変拍子や意表を突くコード進行、テクニカルな曲調もあるけど、誰もが楽しめるメロディがあって、ダンサブルでもある。前作『Effloresce』(2018)を出してから世界をツアーして、日本でもプレイしたし、ミュージシャンとして成長してきたと思う。そんな成長が表れているカラフルな作品が『テクニカラー』よ。

ーーコヴェットの曲の多くはインストゥルメンタルですが、それぞれの曲タイトルとはどのように呼応するのですか?

インストゥルメンタルであっても、頭の中にキャラクター設定やストーリーがあって、それに沿って展開させていくのよ。私は映画『ネバーエンディング・ストーリー』(1984)の大ファンで、前作でも「Falkor(ファルコン)」という曲をやったけど、今回も「Atreyu(アトレーユ)」という曲がある。

音楽的には映画と異なるけど、世界観を思い描きながら曲を書いたのよ。一方「Nero」は曲が先にあって、攻撃的で邪悪な部分と、アンビエントで静逸な部分があると感じた。敵意と栄光が共存していて、ローマ皇帝ネロを思い出したわ。

ディレイのかかったギター・リフが、暴君が王座に向かっていくムードがあると感じた。ストーリーがある曲が多いせいで、『テクニカラー』では長い曲が増えたと思う。物語を語るには、それなりの時間が必要だからね。

ーー「Parachute」と「Farewell」という2曲のヴォーカル・ナンバーが収録されていますが、インストゥルメンタルでは物語を語るのが難しいでしょうか?

コヴェットで私が設けているルールは、どんな可能性も除外するな、ということ。ヴォーカルや歌詞が必要であれば、躊躇無く取り入れるわ。ホーンズでもストリングスでも使う。インストゥルメンタル・ミュージックは聴く人のイマジネーションをかき立てることが出来るけど、この2曲では、より具体的なメッセージを伝えたかった。

過去に囚われず、前進することを促しているのよ。「Parachute」は私の個人的な経験に基づく曲で、とても落ち込んで、あまりに悲しくてギターを手に取りたくもない時期のことを歌っている。でも、ただ悲しみに暮れるのではなく、自分を鼓舞するような曲を書きたかった。それで同じような辛さを感じている人がハッピーになってくれたら良いと思っていたわ。

歌詞はどちらもつらく悲しい経験から解放されることを描いている。

ーー新作でのギター・プレイはどのように変化しましたか?

アルバムではアイバニーズのシグネチャー・モデルYY-10のプロトタイプをメインに弾いた。一部は7弦ギターを弾いたけど、大半は6弦ギターで弾き通したわ。多弦ギターよりも、ベーシックな6弦でいろんなチューニングを実験したり、さまざまなペダルを試してみることに喜びを感じている。

おそらく今の自分は、拡散していくよりも内面を掘り下げていく時期なんだと思う。タッピングも多用しているけど、派手なプレイよりも、曲そのものをどう良くするかを考えているわ。

ーー近年、ヒップホップやEDMのアーティストは“アルバム”の単位にこだわることなく、曲単位でネットで発表していますが、コヴェットとしてあえてフルレンス・アルバムを発表するのは何故でしょうか?

私自身は3〜4曲、20分ぐらいが一番やりやすいけれど、アルバムを作るのは自分自身に対するクリエイティヴな挑戦ね。アルバムを作るなら、全曲が良くなければならない。アルバムを長くするためだけの捨て曲は要らない。『テクニカラー』に入っている曲は、すべて必要不可欠な曲よ。それにコヴェットみたいなバンドのリスナーは、フィジカルなフォーマットを求める傾向がある。

CDやレコードなど、手に持つことが出来るのが嬉しいのよ。私自身も買い過ぎなぐらいレコードを買っているわ。最近気に入っているのはグレン・グールドの『Bach: The Goldberg Variations』。息遣いが聞こえるほど生々しくて、アナログ向きの音ね。DIIV(ダイヴ)の『Deceiver』も好きだし、ボーズ・オブ・カナダ、サン・キル・ムーンの新作も気に入っている。

針音も音楽の一部となるような、ムードのある音楽が好きなのよ。コヴェットもそんなレコードを作りたいわね。

ーーギター・ミュージックの現在と未来をどのように見ていますか?

ギター・ミュージックには何百年という歴史があって、私はそのほんの一瞬を過ごしているのに過ぎない。元々ピアノやヴァイオリンをやっていて、アコースティック・ギターを7〜8年、エレクトリック・ギターは5年しか弾いていないからね。

でも、ギターを弾いて音楽を出来ることには喜びがある。これから数百年ギターは続いていくし、さまざまな変化をしていくと思う。その長い流れの中に自分がいたことに誇りを感じるわ。

取材・文 : 山﨑智之 (http://yamazaki666.com/blog/)