interview :
伽藍からバザールに向かう旅を続ける Boys Age、中国/台湾ツアー・インタビュー

 Boys Age を知ったのは2012年の自主リリースされた初の全国流通盤『The Desk Poet.Or Alternatively as The Human Beings』の頃。その後海外のレーベル Burger Records、Gnar Tapes、Bleeding Gold からカセットテープやCDをリリース、2015年には日本のレーベル MAGNIPH から2枚のアルバム『Calm Time』、『ELSE』を矢継ぎ早に発表。この頃よりファンになったリスナーも多いのではないだろうか。

その後ドラマーの小林タカマサが留学のためバンドを離れ、Boys Age は武藤カズナリのソロ・プロジェクトとなる。以降は Black Opal 名義の作品、バンドを離れた小林タカマサによる Druggnar のEP (アレンジとプロデュースで Boys Age が参加) をリリースするなど多数の作品を発表し続けている。

このインタビューでは日本の鎖国的な音楽シーンにおいて、異彩の存在を放ち続ける Boys Age の中国/台湾ツアーに少しでも迫ること (彼がどんな景色を見たのか?) を目的とした。Boys Age のように全てのクリエイションを一人で行い、リリースを重ねる度にファンを獲得し、海外ツアーも成功させるというのは、後に続くアーティストにとっても、何かヒントになることがあるのではないだろうか?伽藍からバザールに向かう旅を続ける Boys Age の今と少し先の未来を探る。

 まずは中国ツアー5都市5公演 + 台湾公演 (5/22 武汉-VOX、5/23 南京-欧拉、5/24 杭州-Loopy、5/25 上海噪盯迷、5/26 北京-疆进酒 – 5/28 台北-THE WAL) お疲れさまです。ツアー中の模様をツイッターやインスタを見ながら動向を追っていましたが、中国/台湾のファンはとても楽しんでいたよう見受けられました。早速今回のツアーなどについてメールインタビューさせて下さい。

ーまずようやく時代が Boys Age に追いついてきたように感じます。これまで日本より海外で先行して評価されることが多かったと思いますが、Boys Age がレーベルやマネージメントに所属せず、究極のミニマム “一人” で中国ツアーを成功させたということはかなりエキサイティングなことだと思います。今回の中国ツアー実現を自身ではどのように感じて (分析して) いますか?

 レーベルやマネージメントに属していないのは、面倒なことを引き受けてくれる人間がいないから個人的にはマイナス要素ですが、傍で見た場合には非常に夢があるように見えるでしょうね。社交や外交(特にご機嫌伺いや下らない同調)などは苦手なのでいつだって代行者を欲していますが。

分析と言うにも、これだけ興味がある人が集まってくれたのは、中国にとって外タレということもあるでしょうがプロモーターの力でしょうね。聞くところによると、中国では箱付きプロモーターが居て、その人たちというカードのパワーが結果に直結するそうです。今回ツアー全体をサポートしてくれた Modern Sky という最大手のプロモーターの力が1番大きかったでしょうが、箱付きのファンたちを呼べたのはそう言った人たちのサポートあってでは無いでしょうか。

友だちづきあいではなく、カスタマーとバイヤーという関係でそうなってるところがいいところだと感じました。もちろん個人の主観です。私の音楽の価値も当然あるでしょうが、そういった天才性は持っていて当たり前のありふれた能力です。私が超天才なのも確かですが、我々が天才かそれに準ずるのは、相撲の新弟子審査要件のような最低条件みたいなもので、成功に対する貢献力は微弱に思います。

宣伝・広告、自分がここに居る、という事実を代わりに強く出力してくれるメガホンの力強さを実感しました。もちろん彼らはそれで飯を食べているのですから、きっとこともなげに当然をなしたと言うでしょう。私の力は、成功の結果に対しては微々たるもので、体験の満足度をファンに与えられたかはまだ自信がありません。次があれば分かることでしょう。

ーこの中に Boys Age の名前があるのはスゴいことだと思います。可能であれば今回の中国ツアーが決まった経緯を教えて下さい。

 私は犬小屋のような狭い部屋で暮らす貧困層で彼らのようなスターとはまったく別種でしょうから同列扱いすれば失礼にあたりそうですが(笑)、ありがとうございます。 Modern Sky から直にオファーがあったそうですが、仲介人として東京のライブハウス「月見ル君想フ」のスタッフが交渉などは手助けしてくれました。

今回限りのマネージャーとも言え、彼らの元に私を呼びたいという要望が入りそれを中継してもらいました。こちらから持ちかけた訳では無いです。前年の春だか、秋には実現予定だったのですが、向こうの事情で今年になってから行うことになりました。企業単位で大規模に助けて頂いたのは初めてでしたけど、ツアー中は皆さんに良くしてもらいました。

ー勝手な想像ですが Boys Age の音楽への探究心、これまでのキャリア、Spotify (bandcamp など) を筆頭にサブスクリプションなどのプラットホームが整備され、純粋に良い音楽が評価されていると思います。また Boys Age はアートカバーなども自身でデザインしており、そういった楽曲制作からデザインまでを含めた総合芸術として評価されているように思いますが、どうでしょうか?

 総合芸術として自覚的に見るようになったのは、The White Stripes 期の Jack White がそんなことを言ってたからですね。それでも当時は何もわかってはいませんでしたが。結局一番大事なのは中身で、最終的にはガワは全て不純物ですが、中身をより素晴らしく、そして合理的にリスナーに楽しませ空想させるためにはパッケージングも合わせて作るべきです (私は予算の都合上コンビニプリントとiPadとバルクのCDRですがね)。

美しい水信玄餅だって、パン祭りの皿に盛られて出されてはガッカリしてしまうでしょう。アートワークとサウンドが混然一体となる事で寄り深い場所へ啓蒙できるのです。

ー上海では歓声も聞こえたとのことですが、中国のファンの反応はどうでしたか?

 とても良かったですよ。歓迎されるライブというのが久しく無いので実感が薄いのですが、楽しんでくれてたと思いたいです。サインや写真も求められましたし、時間があればもっと交流できたでしょうが、そこのところが少し残念です。大成功とは思いませんが及第点程度には働けたと思います。もちろんまた行きたい。まだ長江も黄河も見てないですしね。

ー演奏では iPad とギター?でプレイされたようですが、Boys Age の今のライブスタイルについて教えて下さい。

 今回はベースですね。今はiPadで事前に用意したオケに合わせて演奏してます。ちょっとしたDJです。この前来日してた Eyedress みたいな感じです。機械再生を忌避される方も居ると思いますし、私も昔はそうでしたが、そも私は同じ演奏を2度としないしライブでは歌詞もメロディも毎回違う。

 ライブ感は満たしていると自分の中で納得がいったためにこうなっています。下手くそだけれど世界で唯一私の音楽を私の次に理解できる良きプレイヤーである小林はドイツでニートしてますからね。ならば機械は人間よりもずっと素晴らしい。もちろん、私がナルトか天津飯なら迷わず分身を選びます。バンドセットの方がいい音なのは確かですから。でもそれは今のところ無理なので。

ーツアー中に Boys Age が instagram に投稿した写真に中国のファンがコメントやメッセージを寄せていましたが、みんな今回のライブを非常に楽しみにしていたようで「❤️❤️❤️」マークで歓迎するファンも見受けられました。コメントを残していた中国のファンのアカウントを拝見したところ、アートやファッション、音楽などに敏感な人ばかりでした。中国という大国を相手にすると、Boys Age がアーティストとして活動する需要があると思いましたが、何かそういった中国の大きさというかダイナミックなパワーを感じましたか?

 国家単位での芸術に関するアレコレは、東京辺りのソレと特別違わないと思います。私が人種や性別で人間を判断しないからわからなかっただけかもしれませんが、いつものようにステージに立ち、いつものように演奏して、たまたま中国の集まってくれた人たちにとっては良きものであれた。それだけだと思います。

内戦とかやってる国でないなら、人は大きく変わることはないと思いますよ。そういう意味ではいつも通りでした。土地は確かにでかいけど、人類はあくまでみたまま等身大、日本と一緒です。ファンに圧倒されることはありませんでした。日本と政治的にしばしば喧嘩してる国の人達の方が私に優しかったのは、まあ確かに皮肉なことですね。

ーBoys Age のようにレーベルやプロダクションに所属せず、マネージャーやスタッフも付けず、今回の中国ツアーを成功させたというのは後に続くインディーズやDIYなアーティストにとっては希望だと思います。DIYマスターとして究極のミニマムを体現されていますが、今回のツアーで困ったことなど、何かエピソードがあれば教えて下さい。

 前述通り流石にツアーでサポートしてくれる人はいましたよ。通訳がいないなら行く気は無い、って言いました。だから中国でも台湾でもガイドさんがいらっしゃいました。人の裏を読むのが苦手だし土地勘もないので、知らない土地に一人でノコノコ行こうとは思わない。これを希望にするぐらいなら芸能事務所に自分をプロデュースした方がずっと楽ですよ。私は多少中抜きされてでも面倒なことはやりたく無いです。

今でも。 特別困ったことは、中国は電子マネーが主流だから紙幣もコインもゴミよりマシ程度だったことですね。自販機で飲み物も買えなかったのには参った。でもスタッフさんに奢ってもらったりで苦労は無かったですよ。他に面倒だったのはGFW(グレートファイアウォール)が邪魔だったことぐらいですね。交通事情に関しては日本のノリでいると普通に死ねます。

ーツアー中の食事はどうでしたか?(中国ツアーに行ったアーティストは、よく火鍋を食べる機会があるようですが、美味しかったもの、気に入った食べもの、これは食べれなかったものなどあれば)

 ソウルフード的なものは美味しかったけど、日本のコンビニ飯ばかり食べてるせいで舌がバカになってて薄味に感じてしまいましたね。ホテルで食べたピーマンの卵綴じみたいなのと燻製卵の親戚みたいな奴、あと炒飯は絶品でした。あとプリンを水に溶かしたようなミルクティーも美味かったです。台湾の飯も美味かった。牛肉入りきしめんみたいなのが今回1番美味かったものです。

ー中国ツアー最終日前日に「こんなにキャーン言われることはもうないかもしれない。日本に戻れば、またゴミ溜めの中に段々と埋もれながら捥がく日々なので。」とネガティブなツイートされていましたが、日本と中国で圧倒的に違ったことはありましたか?(リスナーやファンの違い、ライブでの違いなど)

 単純にプロモーターが私を好んでくれる人を集めてくれましたから、それこそ手刷りのCDRが全然足りなくなって台湾では(自分から勝手に)平謝りする羽目になるぐらいには。圧倒的さならまさしくソコのところでしょう。別に名声や声援が欲しいのではなく、もう少しまともな耳が育っていてくれたなら、といった程度です。

別にネガティブなつもりも無いですしね。ただの事実です。私の音楽がこの国でまともに認められることは、もちろん諦めるのは死んだ後ですが、まぁないでしょうね。それほど期待もしていません。この国は音楽が好きでは無いのだから。これ以上失望させてくれなければそれで良いとすら思っていますよ。それも無理でしょうが。

ー上のネガティブなツイートに対してですが、昨今 Clairo、Girl in Red、Beabadoobee などまだ10代の若くてかわいい宅録出身のアーティストが注目を集め、一部はメインストリームに進出しています。そういった流れが加速しているように思うのですが、先日もあるリスナーが「今USインディーにローファイの流れがある中、日本でそういうアーティスト見ないなぁと思っていたけどやっと見つけた」と Boys Age を見つけていました。こういったリスナーが今後増えることを祈りたいです。

 そういった流れがきてることにすらもう興味が持てなくなってしまいましたが、Temporex、Jakob Ogawa、Michael Seyer、Hala、Banes World みたいな生きのいい若手にはちょっと期待しています。

ほかに特別関心を払っているのはアジア出身の Mellow Fellow と Eyedress ですね。彼らは如何に日本が遅れてるかを理解させてくれる。この遅れというのは流行り廃りではありません。「開拓と冒険の心」の話です。つまらないものは、つまらなくて良くないのです。どれほど良くとも、それは良くないのです。

ーまた余談ですが、昨年のフジロックの会場で Boys Age の楽曲が流れていたようで、それを聞いた人が「この音楽スゴく良い!誰だ!?」と音付きでツイートしていました。それを見た他のユーザーが「日本の Boys Age だよ」的なリプを送っていて、日本にこんなヤバい奴がいたのか!的な反応をしていた覚えがあります。何の情報もなしに音楽で勝負できるアーティストは数少ないと思います。私も現在、2016年に出たアルバム『Romance Planet』をヘビロテしていますが最高です。

(本作は広大な宇宙をテーマにしたスペースオペラ。R.Stevie Moor の朗読からはじまり、ゲストに Summer Twins や Sonny Smith も参加した素晴らしい内容です)

 Fuji Rock他フェス出演の話を知り合いがツイートするたびにコチラは奥歯が木っ端微塵になるほどの歯軋りで夜も眠れませんけどね。残念ながら私は、勝負の土俵に続く階段の1段目にすら足をかけることを許されていません。でも気に入っていただけたことには感謝いたします。

私は私の音楽をファンに寄せる気は毛頭なく、「私の音楽に適応し出来なければ失せればいい」と思っています。ですが、それでも残ってくれる人々には日々感謝しています。感謝を返す手段もまた音楽だけですが。

ーツアーの話に戻りますが、最終日となった台湾 THE WALL でのライブはどうでしたか?台湾のファンの反応はどうでしたか?

 この日は中国のプロモーターの手を離れていたので殆どシークレットギグに近い規模でした。ステージも畳2枚半程度でした。それでも二十か三十人はいらしてました。次はでかいところでやりたいですね。

ー中国ツアーの直前にはニューシングル「落ち宿 (Pass A Night)」を発表されています。これがまたスゴく良い曲で、歌詞や世界観がとても好きです。この曲はどのようにして作られたのでしょうか?背景などあれば教えて下さい。

 元々は英詞で、世界中の金星神をテーマにしたアルバムを作ろうとしていて、この曲は「香々背男」という曲でした。ちょうどツアー前に「赤狼」という戦国時代の日本をテーマにしたテレビゲームをやってて、純和風コズミックホラー作品を作りたいと心変わりしました。

基本的には歌詞という概念そのものが嫌いなので完成すれば(完成しないかもですが)、また英詞に戻りますし、ライブではきっとニャーニャー意味のない何かを喚くだけでしょう。ハナモゲラ語ですよ。歌詞はイメージ力を著しく阻害します。その結果一から十まで納得させるための説明過多なもの以外受け入れられないボンクラが増えたのです。

ー自身で手掛けていますアートワークもかなり手が込んでいてオリジナリティーが高いと思いますが、影響を受けている作家やアーティストなどがいれば教えて下さい。

 ジャン・ジローは好きですよ。絵はまだ殆ど確立していないので思考錯誤しています。どちらかというと、「漫画家の書いた一枚絵」が好きです。森薫、弐瓶勉、田辺剛あたりの絵は暇があれば眺めています。特に田辺剛はとてもいい。ラヴクラフト神話のコミカライズを手掛けていますが、彼の描く怪物は、怪獣じみてるだけの欧米のオーソドックスなそれとは違い、ギーガーの様に美しさとおぞましさがしっかりと同居しています。

ーツアー前のツイートで既に新しいアルバムはできている (!?) とのことですが、今後の活動やリリースについてお話できる範囲で教えて下さい。

 そのアルバムに関しては取り敢えず見て見ぬ振りをしていただいて、六月末の金土と2公演東京でライブします。片方、Smokebees の方は現在は予約打ち止めのようです。リリースに関しては、気が向いた時にでもまたシングルを出します。

本当はコンセプチュアルなアルバムが好きなのですけれど、世の中はそうではなさそうなので。Bandcamp でもグッズとか販売してるから、買ってくれれば第二世代のCore i3しか積んでないモニターが粉々なラップトップをいい加減買い換えられますのでよろしくお願いいたします。

Boys Age ライブ情報

6/28 (金) 小岩BUSHBASH
YOKUJITSU pre “Closed Experement Vol.4”
open 19:30 / start 20:00
ACT:
YOKUJITSU / Boys Age / PROM / Ms.Machine
DJ:
Mestalla / Mirage / Takishita Norihiro(secret method) / 夢咲みちる(もれる)

6/29 (土) 渋谷7th FLOOR
Smokebees “Imaginary Lights Never Fade” release party
Open/Start 18:30
ACT:
Smokebees / CAUCUS / Boys Age / Smokebirds【佐鳥葉子(Penny Arcade, Daffodil-19) + Smokebees】
DJ:
tarai(happy day happy time) / JUDY
FOOD:
インドカレーよすが