interview :
小林愛(作詞家、文筆家)× 金子麻友美(音楽家) 対談「作詞からカシオトーンまで」

kaneko3

小林愛さんは、ご自身で「miami」というテクノポップユニットをされていたり、「ゆるめるモ!」という脱力支援アイドルさんに、歌詞を書いていらっしゃいます。金子麻友美のアルバム『はじまるマジカル』では、M9「はたして、サンドウィッチは」 と、M13「私たちは話していた」の作詞をして頂きました。

金子が小林愛さんと初めてお会いしたのは、2014年6月に行われた「アイドルに詞を書く」ことについてのトークショーで、お互い登壇者として、知り合いになりました。また、2015年8月2日に新宿duesで行われた『はじまるマジカル』発売記念イベントでも、小林愛さんに、トークゲストとしてご登壇頂き、色々と面白くお話を聞かせて頂きました。そして同日、もっと深くお話を伺う対談を行いました。

曲のタイトルについて

金子:今回、小林さんに書き下ろして頂いた曲は、「はたして、サンドウィッチは」「私たちは話していた」と、タイトルが個性的でしたよね。

小林:基本的にタイトルは、簡単に言うと「変わったタイトル」をつけたいんですよね。目立ちたい、みたいなのもあるし、エゴサしやすいようにとか、Youtubeとかで上がったときに、タイトルが変わっていると、それだけでちょっと引っかかるかな、みたいのがあるので。

金子:なるほど。

小林:誰も何にも知らない状態で、いっぱい曲がこの世の中にある中で、選んでもらえるために、みたいな感じで。

金子:今回の曲で言うと、「私たちは話していた」の方は、「話していた」というのは歌詞に出てこないですよね?

小林:あ~、出てこないですね。

金子:あれは何で、あのタイトルなんですか?

小林:歌詞の中に、タイトルの言葉が出てこないのは、なぜかということですよね? ああ、でも私基本的に、そういうタイトルのつけ方しちゃう人なんですよね~。それって結構、良し悪しあるかも知れないですけれど・・・。

金子:じゃあ、愛さんとしては、よくあるタイトルの付け方ってことですね。

小林:そうですね。例えば、サビのフレーズをタイトルにするっていうのは、タイトルを聞いただけで、あの曲だ! って思うので、いいタイトルのつけ方とされていると思うんですけれど、あまり、そういうのやらないですね。タイトルも含めて一曲、みたいな、そういう世界観にしちゃうところがあります。

金子:なるほど!

小林:逆に麻友美さんは、タイトルのつけ方はどういう感じですか?

金子:私は、タイトルをつけるのが本当に下手でして・・・。サビに出てくる言葉を、何も考えずに大体タイトルにするので、もうちょっと工夫を凝らした方がいいなあと、最近思うようになりました。だから、歌詞に出てきていない言葉をタイトルにしたことは、一度もないと思います。なので、「タイトルを含めて一曲の世界観にする」から、歌詞にタイトルの言葉が出てこないんだってことが、今分かりました!

小林:でも、悩むところであって・・・。自分で、コマーシャルとかで「いい曲だな」って思う曲って、サビのフレーズは知っているわけじゃないですか。でも、たまに、例えば「私たちの夏」というのが、素敵なフレーズだなと思っても、全然違うタイトルだったりする曲ってあるじゃないですか。そうすると探しにくいし・・・。「桜の季節」っていうフレーズが入っているサビで、タイトルが「桜の季節」だと検索しやすいけれど、そうじゃない曲だと、何これ? タイトル、桜でいいじゃん! と思うときもあって。

金子:えっ、そうなんですか?(笑)

小林:だから、私は、リスナーとしては、麻友美さん派にしてもらえるとありがたいなって思っている人なんですけど。検索で出てこないじゃんみたいな。たまにそういう曲あるけど、割とイラっとするタイプなんですけどね。分かんないじゃん!っていう。

金子:面白いですね!(笑)

小林:そう思いつつ、そうしないっていう・・・。葛藤なんですよね。

自分のユニットの歌詞や、アイドルさんに曲を書くときとの違い

金子:miamiさんやゆるめるモ!さんだと、愛さんの歌詞が、強い感じがして。怒っていたり? みたいな・・・。言い方が違うかも知れないですけど・・・。

小林:miamiとかは特にそうですね。強めの言葉とか・・・。何も考えずに、むかついたなあ、みたいなことをそのまま書いたりもするので。ゆるめるモ!さんも、コンセプチュアルなことを書いてくれ、というのがあるので。

金子:なるほど、そうすると強くなりますよね。

小林:あんまり日常的な、普通の歌詞にしないでくれ、というのが何となくあるので。

金子:今回、私の曲で書いて頂いた歌詞は、こういうコンセプトでとか、あんまり言わなかった気がしているんですけれど、割と自由に書いて頂いたら、こうなったという感じなんですかね?

小林:そうですね。そうだし・・・麻友美さんだから、自由にとは言え、麻友美さんのイメージもあるので。あんまり人のことを攻撃しなさそうな人だな、とか、悪口とか言わなそうだな、とか、あんまり、ストレスとかも・・・ あるんでしょうけど、あんまり感じなさそうだなとか。

金子:(笑)

小林:この世の中に恨みを持って・・・とかそういう歌詞には、なかなか出来ないなっていう・・・(笑) あんまり、そういう人じゃなさそうなんで・・・。

金子:ありがたい(笑)

小林:あまりイメージを崩しちゃいけないし。でも、自分で歌詞も書かれてる方だから、何かちょっとひとつ、乗せて書かないといけないかな、と思ったりとかもしていたんですけれど。

金子:さっきの(この対談の前に、アルバムリリースイベントで小林さんとトークをしていて、そこで話題に上がった)、モリと地引網のお話を、もう一度して頂いてもいいですか?

小林:上手い例えなのかどうか、分からないですけど(笑)miamiは特に、私がいいと言えばいいし、他の人が歌うこともないので、好きなように出来るし、私が嫌いなことをやる必要はないので。一人の人のことがとても嫌いで、その人のことを攻撃する歌詞を書いてもいいわけだし。

ゆるめるモ!さんは、色んな子が歌うので、そういうことは出来ないですけれど、彼女たちの、アイドルとしてのグループとしての生き様とかが、ピンポイントで魚をモリで突いていくスタイルっていうか・・・どういうスタイルなんだろうそれは・・・(笑)でも、確信を持って、事実を突く! この魚を得る!(モリで突くポーズ)得る! みたいな感じで。でも、麻友美さんはあんまり「生きるか死ぬかの戦争だ!」みたいな感じはいやだし、地引網でふわっと(笑)

金子:それがすごい腑に落ちました。

小林: ・・・本当ですか?(笑) 全然、どういうことなんだって、自分で言ってて思ったんですけれど・・・(笑) まあ、あまり区別とかはないんですけれど、他のところで書いているものと、同じテンションで、同じ言葉を使って書いても意味がないですし。自分の引き出しもちょっと増やしたい、みたいのもありました。

金子:ありがたいです。地引網。

小林:あと今回は、あんまり突拍子もない言葉を、歌詞に入れていないと思うんですけれど、でも、やっぱり微妙な感じがきっとあって。それでも、麻友美さんに歌ってもらうことによって、形にちゃんとなってるなっていう。そこは上手くいったような気がします。やっぱり表現力がある人だから、そこはお任せしちゃうような。

金子:いやいや!(照)

小林:電気をつけるのに「あれは、何とかの電球が入っていて、ここでこうやってコードがつながっているため、ここでスイッチを入れると電気がつくんですよ」という歌詞にしなくても、「壁を触ったら、電気が点きました」くらいで、多分そういう仕組みがちゃんと、歌になるような感じになるだろうなと思って。

ワケわかんないところもあるじゃないですか、何となく、歌詞的に(笑) それを理解してもらう必要はなくて、ちゃんと自分のものにして歌ってもらえればいいだけなんで、ちゃんとそれが出来てるし・・・。かなり上から目線な言い方になっちゃうんですけど。

金子:いえいえ!(焦)

小林:それが素晴らしい体験でした!

金子:ありがとうございます!

小林:シンガーソングライターの人と一緒にものを作るっていうことをしたことがなかったし、勉強にもなりました。やっぱり、全然違いますね。私としても、「歌詞も書く方に、歌詞を頼まれる」っていうのは、プレッシャーでもあるし、よくそれをしてくれたな、とも思うんです。

金子:あっ、それは私の問題なんですけれど、自分をシンガーソングライター的な存在ではなくしていこうと思っていて。だから、愛さんに書いて頂いた「私たちは話していた」とかは、キーとかは自分ではすごい歌いにくいんですよ、実は。ただ、歌として成立する方を優先して。でも、もしかして、誰かそれを歌いやすい人が歌ってくれたら、すごいいいだろうなと思うし・・・という感じで作ったんで。

小林:なるほど。じゃあ、自分に合わせて作ったりはしていない?

金子:していなくて、だから他の曲より、明らかに歌いづらくて(笑)

小林:そういうのもあるんですね。自分で作ると、キーなんて、いいように変えていいんですもんね。

金子:変えちゃって、音域とかも狭くしちゃうんですけれど。

小林:でもやっぱり、一人で出てきて弾き語りしたりすると、シンガーソングライターの枠に入れられるじゃないですか。私もそう思っていたし。

金子:今は、そうなっていると思うんですけれど。

小林:人に曲を作ったりとかをしたい人なんですね! 自分が前面に出て、歌声を聞かせたいっていう、そういう人もいるじゃないですか。

金子:そうですね、そっちじゃなくしていきたいな・・・というのを、今回のアルバムでは、半分くらいの曲でやったつもりでいて。

小林:是非、ペアで誰かに曲提供っていうのも、募集していますよね!(笑)

金子:声を大にして募集したいですね!(笑) だから、今回アルバムに入れた曲も、誰かに歌ってほしかったりもするし。

小林:そう思うと、色んな人が歌っても違和感がないような歌詞にするのも、結構大事かも知れないですね。

金子:「私たちは話していた」は、そんな感じなのかなって。

小林:そうかも知れないですね!

「はたして、サンドウィッチは」について (詞先の曲が送られてきたとき、どう思いましたか?)

今回、「はたして、サンドウィッチは」 は、愛さんに先に歌詞を書いて頂いて、それを金子に送ってもらい、それに対して金子が曲をつけて返信し、愛さんが改めて歌詞を整える、という形で制作を進行しました。愛さんは、「詞が先での曲作りは初めてだった」 と、トークショーで仰っていました。

金子:これは個人的に聴きたいんですけれど、「はたして、サンドウィッチは」の曲が来たときに、「あれ、こんなんなの?」って思いませんでした・・・?

小林:思わないですね! 逆ですよね。すごーいって思いました。かわいかったし。

金子:あっ。よかった。不安を覚えていました(笑)

小林:やっぱり、歌詞にちょっと自信がなくて、こんなんでいいのかな? みたいな感じもちょっとあって。

金子:あれ、なんか不安ですね!あのやり取り(笑)「何これ」って思われるかも知れないっていう、恐怖を抱えたまま・・・。

小林:麻友美さんも、他の方に曲だけの提供をしたことってありますか? それに歌詞を載せてもらったりとか。

金子:6月に、遊佐春菜さんという方のソロアルバムが出たときに、「夜の足音」という曲を、「はたして、サンドウィッチは」と似たような感じで作りました。

最初に私が「こういう曲を作りました」という、ラララ~だけの曲を、歌詞を書いて下さる方(藤井邦博さん)に送って。あ、でも、今回愛さんに最初に詞を頂いたときは、もう既に文章になってたじゃないですか。藤井さんの時はそうじゃなくて、一行のイメージの羅列みたいなものを、バーっと送ってもらって。それで一回、送った曲に歌詞を当てはめて作って。ただ、そのバーっていう羅列を見ていたら、最初に送った曲じゃない別の曲が浮かんできたので、その曲も送ったら、結局、新しく作った曲の方が採用になって。その曲はすごく気に入ったので、今回の自分のアルバムにも入れたんですけれど。(12曲目)

でも、それもやっぱり、緊張するっていうか、曲を送った後しばらく反応がないと、不安にかられる、みたいな(笑)

小林:私も、基本的には歌詞を書く人で、色んな人の曲に歌詞を書いてきたので、やっぱり、見ず知らずの人の曲も来るんですよ。それって、すごい緊張するんです。会ったこともないし、喋ったこともない人なので・・・。未だに緊張するというか。気に入ってもらえるかどうか、分からないというのもあるし。 絶対、曲を書いている人って、詞のイメージを持って書くわけじゃないですか。

金子:どうなんだろう・・・? 私はあんまりイメージを持って書かないのですけれど、普通はあるのかも知れないですね・・・。あっ、「明るい歌詞」とかのイメージはあるかも・・・!

小林:私はわかんないんですけど、きっとあるような気がして。そのイメージにあったものじゃないと、アレって思うじゃないですか、きっと。「そういうつもりで作ったんじゃないのにな」っていうふうに思われるのも、何となく分かるんですよ。私、ちょっと変わった歌詞を書きがちだから。ただ、それを気にしちゃうと全然作れないので、最終的には気にしないようにします。

金子:でも、「こういう歌詞だろうな」って思っていて、全然違う歌詞が来たほうが、楽しくないですか?(笑) 自分が、理解できていないだけじゃないか、って私は思っちゃいます。

小林:全然作詞をしない方だと、また違うみたいなんですけれど、作詞もする方だと、結構違和感があるみたいで。

金子:そうか、「自分だったらこうする」とかがあると。確かに全然知らない人だと、緊張しますね・・・!

「私たちは話していた」について

小林:「私たちは話していた」は、「季節がいつもあって、遅れてくる私たち」っていうのが、ちょっと分かりづらいかなっていうふうに思って、あそこは超悩んだんです。

金子:そうなんですね。

小林:分かりづらいって言えば、分かりづらいっていうか・・・謎じゃないですか。

金子:何となくの理解、っていうか・・・。

小林:そうですよね。 基本ベースとして、悲しい男女の話みたいな歌なんですけれど。 世界とか世の中って、別に何も変わってなくて、常に(ちょっと笑って)何か、ヤバい感じなんですけど(苦笑)、地球とかって、何も変わらなくてあって、ずっとずっとあって、そこにいつも、私たちが後から乗ってくる、やってくるっていうか。

金子:ああ! そういう意味なんだ!

小林:いつも季節とかは、変わらずに、ずっとずっとあって・・・。

金子:私はもっと、ミクロな話かと思っていました。もっと、地球くらいマクロな話なんですね。

小林:そういうところから考えて、私たちが季節とか世界を作っているわけじゃなくて、そこに私たちは乗っかっているだけっていう、そういうのがモヤモヤあって。

金子:なんかそういう「諦めている感」みたいのを、すごい感じて。なるほど。そういう意味なんだ。

小林:曲の雰囲気もありますし、ストレートな感じにしたいなというのもあって。

機材について

CASIOSA-46

金子:今日のライブ(新宿duesでのリリースイベント)では、CASIOのSA-46を使って演奏したんですけれど。最近ライブでSA-46を結構使っていて、そうしたら、miamiさんっぽい音だって言われたことがあって。

小林:miamiは、初期はカシオトーンで曲を作っていたんですよ。私も持っていたし、相方が、ビンテージみたいな昔のカシオトーンを持っていて。昔のカシオトーンって、音色とかが可愛いんですよね。miamiの初期は、打ち込みとか、それでずっとやっていたんですよ。

金子:カシオトーンの、後継の後継みたいな機種なのかも知れないです、SA-46は。

小林:それが壊れちゃって、やめたっていう。

金子:壊れたからやめる! 超いいですね!(笑)

小林:昔のすぎて、電源がつかなくなって、やめました。

小林:今は麻友美さんはソロプロジェクトじゃないですか。バンドとかやろうとか思わないんですか?

金子:あんまり思わないですね・・・。身軽じゃないですか、一人に慣れると。だって、「明日ライブあるけど」って言われて、楽しそうだったら、「行っきまーす」って言って、出れるじゃないですか。でも、明らかに音楽に客観性はなくなるので、それは超難点ですけど・・・。

小林:私は一人で音楽活動するのは、寂しくて、寂しくていやだったんですけどね。

金子:寂しいですか?(笑)

小林:寂しいです、私は! 基本、一人でやるの寂しいですね。仲間がいないっていうのが寂しいですね。

金子:そっかー。なるほど。(メンタルが強すぎて、全然寂しいと思っていなかった・・・。) もっと寂しがるようにします(笑)

(2015年8月2日 新宿 / 進行・まとめ:金子麻友美)

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