菅井協太 3rd アルバム『y533』インタビュー | 聞き手 Botanical House 主宰 染谷大陽 (Lamp)

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2016年4月2日、Lamp の染谷大陽が、自身のレーベル Botanical House より3rdアルバム『y533』をリリースする菅井協太にインタビューを行った。

「高3の頃に小さな作曲マシンを手に入れた」

染谷 : こんにちは。

菅井 : こんにちは、よろしくお願いします。

染谷 : 菅井君って何歳から音楽を始めたんですか?

菅井 : 14才の頃、兄の影響でギターを始めました。

染谷 : へえ、そうなんだ。その頃はどんな音楽をやっていたのでしょうか?

菅井 : パンクバンドをやっていました。このジャンルであれば作曲の入り口は容易ではあり、コードやコード進行がかなりの割合で重要になってくるので、その研究に没頭しました。

染谷 : この音楽性、絶対パンク・ロックを通過しているなと思ってました。たしかに、僕らの世代だとメロコアとかはビートルズの延長線上の音楽というか、要は、メロディーとコード進行の音楽でしたもんね。

僕はオリジナル曲を作ることにすごく興味があったので、ギターを始めてすぐにオリジナルを作り始めたのですが、菅井君は何歳くらいの時から、オリジナル作ってました?

菅井 : 音楽を始めた1~2年後だったと思います。しかしコードを知るにつれて、知ったゆえの残念な気持ちが膨らんでいきました。

染谷 : 残念な気持ち?

菅井 : こうすれば、どうやったって一見良い感じの曲ができるんだな。大きく言うと思春期だったので、こうやって世の中は回っているんだな、という気持ちです。

染谷 : ああ、僕も似たようなこと思いました。でも、僕はその事をだいぶ前向きに捉えましたけどね。

菅井 : といいますと?

染谷 : 「音楽ってこうなっているんだ」という、何かを発見したような喜びが一つと、それを知ってもっと普通でなくて良いものが出来るんじゃないかという気持ちがありました。

菅井 : 素晴らしいですね。

染谷 : バンドを続けたりはしなかったのですか?

菅井 : バンドは高3の頃には周りと音楽性が合わなくなるのを見越して、個人でやるようになりました。

染谷 : 普通に考えたら合わないでしょうね。そこからが菅井協太のベッドルーム・ミュージックの始まりなんですね?

菅井 : その頃に小さな作曲マシンを手に入れたので、ずっとそのマシンで作曲・アレンジをしていました。

染谷 : 作曲マシン?怪しいですね。それはどんなもの?

菅井 : 専門用語で言うとシーケンサーというのですが、封筒のようなサイズに小さな白黒の画面がついていました。今思えば大変扱いづらかったのですが、今また思えば、それでも今のように何でも出来ました。

染谷 : シーケンサー、恥ずかしながらどういうものかよく分かってません。宅録が自分に向いているのではないか、となったわけですね。将来、音楽をやろうとか、職業にしようとか、そういうことは思いましたか?

菅井 : 思いました。音楽の専門学校にも行きましたし。

染谷 : そっか、そうでしたね。音楽の専門学校ってどうでした?行ってよかった?

菅井 : 広く様々な種を植えてくれた気がします。ライブもやればPV作りもパソコンでやったり、リズムや作曲、軽音楽の歴史に関する授業などありました。

染谷 : 僕はどこで聞いたのか、音楽は人に習うものじゃないと勝手に決めつけて今に至るので、とんでもなく基礎がないんですよね。若干後悔してますね。

菅井 : どのような時にそう思うのですか?

染谷 : みんなでスタジオに入って合わせる時やステージで演奏する時の自分の技術の無さとか、アレンジをするときの知識の無さなど、痛感してます。

「自分の役割を一つ終えられた」

染谷 : 話しは変わりますが、1st『イタリア』は、どこで制作とリリースをしたんでしたっけ?

菅井 : 学校に、目をかけて頂いた先生がいまして、彼の自宅に作曲マシンを持ち込み、良いマイクがあるという事で全て録りなおし、デモを制作しました。それをソニー傘下の会社で調整し、発売させて頂きました。

染谷 : おお。その会社から話しがあったのは、どういう経緯だったの?

菅井 : デモテープを方々に送りました。

染谷 : へえ、そうなんだ。1stを出すとき、どんな気持ちだったか覚えてますか?

菅井 : 嬉しかったですね。

染谷 : 19歳であれはすごいです。基本的な世界観みたいなものは今と変わってませんね。

菅井 : ありがとうございます。

染谷 : その後、2ndの『マドンナ』はOooit Recordsというインディー・レーベルから出ましたが、これはどんな経緯だったんでしたっけ?

菅井 : とにかく勝手に昔の人も含めて海外のアーティストと音楽的に張り合っていたので、それまでのレーベルの人と上手くいかなくなりました。見てる方向がどうしても違ったのです。彼らがまともなのですが。

染谷 : それ、すごくわかります。僕も心の中で昔の海外のアーティストと張り合ってました。志を高く持つって大事だと思いますよ。それくらい強い気持ち持たないと良い作品って生まれないと思う。

菅井 : 自分以外にもそんな頭の人がいたのは驚きです(笑)。

染谷 : で、どうなったの?

菅井 : 音源は完成していたので1stを気に入ってくれた別の音楽事務所の方に声をかけて頂いて、その方がOooitと繋がっていたのか、その事務所とOooitと共同で発売することになりました。

染谷 : これは売れそうだなとか、そういう感覚ありました?

菅井 : 売れそうだなというのは特に思いませんでしたが、自分のこの世での役割を一つ終えられたと思いました。

染谷 : 立派ですね。内容には満足していたということですか?

菅井 : していました。

染谷 : 僕はこのアルバムで初めて菅井君の音楽に触れ、よく聴いてました。この時期の菅井君の音楽が一番変てこで一番好きです。

菅井 : ありがとうございます。

染谷 : このアルバムにはそれまでの日本語詞の曲と英語詞の曲が混ざっています。ここらへんは菅井君の中で何か違いとか、考えとかあったのでしょうか?

菅井 : 英語にすることによって海外の曲と比べやすくして同じ土俵に立つのが一つ。日本語より自由に曲、それに自由に歌詞までが作れるのが一つ、という思いが当時ありました。

染谷 : ここに入っていた「Freak Show」が『The Many Moods of Smiley Smile』というコンピレーション・アルバムに収録されたことがきっかけで、僕らLampと会いましたが、当時の僕ら3人の印象とか、覚えていますか?

菅井 : ライブを見させて頂きましたが、急に香保里さんがフルートを吹いて格好良いな、と思ったら確かアコーディオンも弾いて、なんて便利なんだ(笑)と思いました。染谷さんには話しかけて頂いて、確か「Freak Show」のフルートが入る後半のパートを褒めて頂き、ああいった所を気に入ってくれる人もいるのだなと思いました。思えば染谷さんは良い意味で今となんら違いは感じません。その後、永井さんが絶妙に面白い方なのには驚きました。

染谷 : へえ、全く覚えてません。

菅井 : なんですかそれ(笑)

「これを聴いて寝ても良い」

染谷 : いよいよ、『y533』のリリースだけど、今どんな心境ですか?
僕はね、自分がやってるLampの作品もそうなんだけど、レーベルでやっている作品も一作一作世の中に叩きつける気持ちなんですよね。リリースするとき。「どうだ、こんな作品、他にねーだろ」みたいな。
菅井君にとって、『y533』にそういう気持ちはあります?

菅井 : ありません(笑)。

染谷 : ああ、そうですか。どういう気持ちですかね?

菅井 : どうも分からないんですが、一晩たてば分かるかもしれません(笑)。

染谷 : 良い答えですね。
僕は結構にぶいのか、聴いてしばらくしてから気付いたのですが、『Madonna』収録のタイトル曲「Madonna」は既にこの『y533』に繋がる雰囲気がありますよね。

菅井 : 「Madonna」はアルバムの中でも一番新しい曲でしたし、地味なのですが、一番の取って置きの曲でした。この方向で自分なりに荒野を見つけたので、その後開拓をしていったのです。

染谷 : 『y533』の楽曲群はどんなものに影響を受けてああいうことになっているのでしょうか?

菅井 : 例えばスローであるという事ですか?(色んな)影響もありましたが、当時、常に体も頭もダルく、今でこそ筋トレや食事に気をつけていますが、テンポの速い曲は聴いていられませんでした。しかし一般的にはイージー・リスニングかレゲエしかゆったりした音楽がなかったので、ああいった物が自分に必要でした。また、潜在的にそういった需要があったら嬉しいなと思いました。

染谷 : 「Madonna」という曲を作ったことによって見えてきた景色があったのか、その前からもっと全体が見えていたのかでいうと、どっちでしょう?

菅井 : 「Madonna」は最初テンポのある曲だったのですが、ゆっくりにして居心地がよかったので、そこを掘り進めていきました。

染谷 : 『y533』の音作りの面を訊きたいのですが、このアルバムは本当に今の時代とは思えない音に仕上がっていて、僕はそれがすごく好きだし嬉しいんですが、例えば、1曲目の「Sweet Bathing」、これ、とても大好きな曲なんですが、これはどんな順番でどんな方法で録り進めて行ったのですか?

菅井 : ありがとうございます。全部同時進行です。おかしな言葉を少し失礼させて頂きますね。感覚と数学的、幾何学的な図形的要素をイメージして楽器や歌で有機的に取り組んだ。という感じです。

染谷 : この曲、影響元が分かりにくく、そこも魅力的です。
曲を作るときにどんなことが重要だったでしょうか?気をつけたこととかありますか?

菅井 : 少し専門的な話になってしまいますが、例えば「Botanical Garden」という曲では、ドとミとソという基本的な和音にシを加えたメジャーセブンスという和音を使いましたが、このコードをゆっくり弾いた時特有の緩さがあるのですが、一方、自分には響きがオシャレ過ぎて扱いづらい面がありました。そこでメロディーの主となる音をファ#にし、全体の響きを汚くすることができました。また、植物園の温室ハウス内の蒸し暑さを表現することが出来たのではと思います。Sweet Bathingのように和音の観念を外した部位のある曲もいくつかありますが、そういった感じで進めていきました。

染谷 : 考え方が面白いです。菅井君、たまにその言葉使いますよね。オシャレな感じが気になるとか。
作るときにリスナーのことを意識することはありますか?どんな人に聴いてほしいとか。

菅井 : 音楽好きの方にはもちろんですが、このアルバムの内容は何にも媚びることなく作っていますので、例えば日々鬱屈している方には、こういった物があるのだと安心して頂けたら嬉しいです。そしてまた生活に戻って頂けたら最高ですね。しかし自分の音楽に慣れていない方には聴き難い面があると思います。面倒ですが聴き方があるのです。例えば一番良いのは、夜中にふと目を覚ましてしまった時です。この時に聴いて頂けるとこのアルバムのテンポや波長が丁度良く感じられるのではと思います。そうまでする価値があるのかは、先に公開しているトレイラーで、いつか試して頂けたら嬉しいです。

染谷 : 菅井君は特にどの曲を気に入っていますか?気に入っている点などがあれば、それも。

菅井 : 上記に出てきた2曲と、「Bright Time」という曲のギターソロが気に入っています。また、「Sun Break」や「Time Flies」のイントロのピアノが上手く構成できたのではと思います。

染谷 : ギターソロとかピアノとか、そういう理由は意外でした。もっと全体的なことを言うかなと。
僕も「Sweet Bathing」は大好きですね。あと2つ選ぶなら、「Boil A Kettle Again」と「Sunshine」かなぁ。選ぶのが難しいですね。
菅井君にとって音楽とはなんでしょう?

菅井 : ユーモアです。

染谷 : 僕は音楽的ユーモアがある音楽が好きで、一方、言語的ユーモアを音楽の中に入れることが好きではないのですが、菅井君の音楽には音楽的ユーモアをたくさん感じます。
最近興味があることについて教えて下さい。音楽に関することでもそうでなくても何でも良いです。

菅井 : 常に何かしら活動をしていたいので、出来るだけ寝ずに体調を維持したいと思っています。それゆえ、筋肉の体や頭に及ぼす影響に興味があるのと、ヨーグルト、黒酢にも着目していましたので、それらにプロテインを混ぜて日に500ml飲んでいます。しかし筋トレをサボってしまったので単にぷよっとしました。

染谷 : 最後に、このアルバムを聴いてくれている方々に菅井君から何かありますか?

菅井 : これを聴いて寝てしまっても、むしろ車を運転していて隣の人が寝てしまった時の様に嬉しいです。Lampの香保里さんに作って頂いたデザインも見て頂けたら嬉しいです。CD裏面の曲名の文字感や、帯や文字色のタイトで美しいピンクと画像との素晴らしいバランスが感じられるのではと思います。

染谷 : 僕はこれが売れて、1stや2ndの再発がやりやすくなったら良いなと思いますし、次の作品も出せる状況が作れたら良いなと思っています。今日はありがとうございました。

菅井 : ありがとうございました。

(2016年4月2日/神保町にて)

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