5/13 (水) 下北沢three でのワンマンライブをもって解散を発表した Paradise、解散発表前のインタビューをお届け。

Paradise、4作目のアルバム『Double dream is breaking up the door.』。完成前からこのアルバムを最後に、関口萌はバンドの脱退をメンバーに告げていた。そんないつ破綻してもおかしくない状況の最中作られたこのアルバムは、彼らの「何かしでかしそうな」感性はそのままに、これまでの中でも1番「まとまっている」作品だ。日本のロックミュージックシーンにおいて、無視されてはいけない重要なアルバムの作成に至る経緯と、バンドのこれからについて、冷牟田敬に聞いた。

インタビュー/まとめ:佐久間トーボ(放送作家)

ーまず今回のアルバムの作成に至ったきっかけを教えて下さい。

冷牟田:とりあえず前作のビアトムンフラワーを作った段階で、まだ曲があったんですね。だからまだあと1,2作は出来るだろうと思っていて。

最初の呼詩の案では今回のアルバムは3枚組の予定だったんですよ。で、メンバーからもレーベルからも3枚組はちょっとまずいんじゃないかという事で色々やり取りがあって、結局1枚になったんですけど。

実はそのやり取りの過程で色々衝突や問題が起きて、結果的にベースが脱退してしまい、ドラムの萌君もバンドを続けるのが難しい状態になってしまって。本当にこのアルバムは出来るんだろうか?と思いながらも何とか作り上げた1枚でしたね。

ー本格的にアルバム作ろうって話になったのは去年のいつ頃だったんですか?

冷牟田:僕と呼詩はベースがいなくなっても3人でアルバムを作ろうと、去年の後半からはずっとそういう感じだったんですけど、萌(関口)君はずっと気持ちが揺れ続けていて。何とか萌君を説得して作る事になったのが今年の1月ですね。このアルバムを作って辞めるという事になって、萌君も最後にその約束を果たして去っていって。だからこの3人でぶつかり合いながらバンドをやってきた最後の瞬間が、そのままパッケージされるような作り方でしたね。

ーじゃあこのアルバムに収録されている楽曲は元々あった物なんですね?

冷牟田:そうですね、7割位はかなり前からありました。1~4曲目までの前半部分が新しめの曲で、後半はほとんど昔からある曲です。

ーという事は4曲目までの前半の曲に、こういうアルバムにしようという方向性が入っているのでしょうか?

冷牟田:そうかも知れないですね。Paradiseがアルバム作る時は毎回そうなんですけど、アルバム後半の感じっていうのはいつも呼詩の構想の段階で結構きっちり決まっていて、楽曲としてもライブでもずっとやって来たアルバム後半を飾れる曲っていうのは多くて。逆にアルバム前半はいつも曖昧な所が多い気がします。

今回1曲目のブレイズネイルとかは、僕が新しいアルバムの1曲目を飾るに相応しいリフを作らなければと思って作った曲でしたね。ロックバンドのアルバムの1曲目のイントロってかなり大事というか、そこに何かしら引っかかりが無いといけないと思っているんで。 で、あと4曲目に「初恋の狂気」というギターと歌だけの小曲を組み合わせたゾーンがあるんですけど、これなんかは萌君と連絡取れなくなって、僕と呼詩だけでスタジオ入ってその場でセッションしながらレコーディング直前に作ったんですけど。

ーこの曲が僕は、この先Paradiseが続くとした場合すごく大きな意味を持ってるなと思いました。この曲は他の曲と比べてこれまでにない感じだし、冷牟田さんと呼詩さんの持ち味がしっかり出ているなと思います。

冷牟田:この曲の事を呼詩は2人ジョン・フルシアンテと言っていて。1人でジョン・フルシアンテみたいな事やってるやつはいても2人でやってるやつらはあまりいないだろうと(笑)

ーなるほど(笑)この曲は僕はとても好きですね。アルバム前半に関してはそれを聴いてすごく腑に落ちたというか、これまでのParadiseと違う事をやろうとしているんだなという感じはしました。

冷牟田:そうですね。で、2,3曲目は萌君の曲なんですけど、まぁ彼なりの最後のけじめのような感じはあったのかなと思います。Paradiseってタイトルつけてるのも決別宣言のような所もあるのかなとも思うし。

ー萌さんが持ってきた曲に関しては冷牟田さんや呼詩さんはどうでしたか?

冷牟田:昔から萌君の曲ってポップで完成されているので、あまり何も言う余地が無いんですよね。好きにやってっていう感じで。

ーParadise を初めて聴く人にはこの2,3曲目辺りがすごく取っ付きやすいようにも思えます。

冷牟田:萌君の曲っていうのはやっぱり風通しが良いんですよね。スッキリしてる。毎回アルバム前半には萌君ボーカルの曲は入れてたんで、今回も入れたという感じで。

ーこのアルバム全体のテーマのような事に関してはメンバーで話したりはしたんですか?

冷牟田:テーマを決めるのはいつも呼詩なんですけど、構想に関してはその都度話を聞いたり確認していたんで、何となく把握は出来ていましたね。彼の代わりに説明すると、今回のアルバムタイトルの『Double dream is breaking up the door.』というのは二重の夢がその扉を壊す、という意味で。二重の夢っていうのは眠りながら見る夢と目が覚めた状態で見る夢の2つの事を言っているそうなんです。その2つの夢で現実の扉を壊すという。前作ビアトムンフラワーは呼詩の中で宣言状態を提示したものらしくて。で、その次に二重の夢という武器をテーマとして掲げるというのは彼の中にあったんだと思います。何かそれを僕が言っても説得力無いですけど(笑)

ーなるほど、帯の文句にもそれははっきりと書いてありますしね。

冷牟田:そうですね。で、今回のアルバムの特色の一つとして、呼詩がネパールに滞在してきた時に録音した街や雑踏の音がアルバム全編の主にイントロとアウトロに挿入されているんですよ。うっすらと聴こえる位の感じなんですけど。それが聴こえる事で全体的に不思議な非現実感が生まれたというか。それも呼詩のいう二重の夢を表す物の一つなのかも知れないですね。

ー非現実といっても現実と繋がっていないような感じではなくて、ちゃんと現実と地続きな感じがしますよね。別の文化で過ごしてる人達の生活音だったりとか。アルバム後半の流れに関してもお聞きしたいんですが。

冷牟田:Paradiseのアルバムの流れの特徴として後半に攻撃的な曲を詰め込む傾向はあると思います。今回でいうと8~10曲目の流れですが。

ーそうですね。10曲目のタイトル曲なんかは前作ビアトムンフラワーのdisc2のような位置の印象を受けました。 じゃあ Mokixx から含めてこれまでのアルバムと比べてみると今回のアルバムはどうですか?

冷牟田:そうですね、これは他の人からの感想でも何度か言われた事なんですけど、今回のアルバムって4枚目なんですけど、何かファーストアルバムみたいな煌いた感じがあるような気がするんですよね。

ーそれって凄い事ですよね。バンドは空中分解しかけているのに初期衝動を取り戻したかのようなアルバムが作れるっていう(笑)

冷牟田:普通のバンドならベースいなくなってドラムも辞めようという状態でこんなアルバム作れないですよね(笑)楽器の演奏の具体的な話で言うと、これまでの Paradise って7,8人ベースが代わってるんです。で、どの人も本来ベーシストではないような人に無理にやってもらったというパターンが多くて。ベースラインもほとんどこれまで萌君が作っている事が多かったんですが、今回ベースがいなくなったので萌君が全曲ライン録りでベースを弾く事になって。で、彼のベースが上手いんですよね。だからベースが上手いと良いなぁと思って(笑)当たり前の事なんですけど。

ー(笑)なるほど。

冷牟田:今までのベースの人もそれぞれ個性があったし頑張ってくれて良かったんですけど、元々ベーシストではないという所でなかなかベースの本質的なグルーヴのような物は出せて無かったと思うんですよ。それによる音のバラバラ感が良くも悪くもこれまでの音源にはあった気がするんですけど、今回萌君が弾くベースで全体の音がグッと一つになるような感じはあって。だから尚更ファーストアルバムっぽく聴こえるのかも知れないです。皮肉な事だと思いますけど。萌君も最後だからベース弾いてる訳だし。

だからアルバムとしてこれまでの作品と比べたら Mokixx のファーストラストとParadiseでは最初のAlcohol Riverに近いのかな。でも原点回帰では全然ないんですよね。原点には全然帰ってなくて、何か一巡りして全然違う世界のスタート地点に行ったというか。

ー確かに色んな過程を経た上で初期衝動に戻っているというか。だからこそ今作はファーストラストやAlcohol River以上にファースト感があるように思いました。すごく聴きやすいのと同時に皆の執念のような物も感じました。

冷牟田:執念はありましたねぇ。そうですね。

ーそれにしてもレコーディングをよく完遂できましたね。

冷牟田:そうですよね。レコーディング当日朝まで呼詩と萌君が雰囲気悪くて、呼詩が俺は帰るとか言い出して、いや頼むからここまで来たんだから我慢してくれと言って連れて行ったり。でもまぁ8年間腐れ縁でやってきた3人なんで、スタジオまで連れて来れれば結局何とかなっちゃうような所はあって。それで作り上げた感じはあります。

ーそこまで冷牟田さんが心を削ってまで今回のアルバムを作り上げた理由が聞きたいのですが。前作のビアトムンフラワーがものすごく完成されたアルバムだったのであれで終わっても正直誰も文句は無かったんじゃないかなと思うんですよ。数年前にParadiseを何とか続けようとしたという話があって、その時は悔いが残っていたんだと思うんですが、その後ビアトムンフラワーというアルバムを作った事で空中分解したとしても納得出来る話だったと思うんですよ。そこはどうなんですか?

冷牟田:そうですね、呼詩は本当に真剣にアルバムに取り組むけどその代償として萌君が辞めていくようなぶつかり合いにもなって。そこで僕が彼らに勝手にさせてバンドが崩壊して終わりという風にも出来たと思うんですよね。そこで僕が彼らを繋ぎ止めてアルバムを製作したというのは確かにあって。そうで無ければ今回のアルバムは出来なかったとは思うんですよね・・・。

う~ん、何で出来たんだろ。ぶつかり合って分解して終わるのもうちららしいけど、悔しいなというのもあって。あとは今までのParadiseのアルバムって、前作と前々作はどちらも2枚組で、ファーストはミニアルバム位のボリュームで、今まで1枚も40分位のまっとうなボリュームのアルバムって作った事が無かったんですよね。そういうロックのマナーを守ったような普通のサイズのアルバムを作ってみたかったというのはありますね。色々揉めましたけど、そこは呼詩も3枚組の案から1枚のアルバムに的を絞って構想を練り直してくれて。それで出来たのは良かったですね。

ーそこは冷牟田さんの執念というか、受け取ったバトンをしっかり繋げなければという思いがあったんですね。

冷牟田:そうですねぇ・・・。あと、前作みたいな内容こそが終わりっぽいアルバムかも知れないんですけど、僕はロックバンドが終わる時は次もあるんじゃないかなと思わせるような感じのアルバムで終わっていく方が好きなんですよね。

ー萌さんや呼詩さんは出来上がったアルバムについては何か言ってましたか?

冷牟田:まぁ萌君はすぐに辞めてしまいましたしね。彼自身このアルバムにまだ向き合えていないと言っていました。呼詩と僕は内容には満足してますね。前作だと呼詩の割合が大きすぎて彼もきつかったと思うんですけど、今回は前作よりももっと真っ当なロックボーカルとしての役割になっていると思うし、僕も今回ギターの録音に時間かけれたのもあってすごく良いギター弾けたし、良かったと思ってます。

ー最後に今後のバンド活動について聞いていきたいんですが、レコ発のライブも決まっているのですが、サポートメンバーに昆虫キッズの佐久間さんが入ったりしてますが。

冷牟田:佐久間君のドラムは好きですし、Paradiseの中で彼が叩いたらどうなるんだろうという興味もあったので誘いましたね。身の回りに他にドラムの知り合いがいないというのもあるんですが。まぁ1回きりの試みとして面白いかなと。あんまり頼り過ぎたら佐久間君嫌がるかもだけど(笑)

ー佐藤優介さんもベースで参加されるんですね。

冷牟田:優介君は5年位前に Paradise のライブ観に来てくれたりしてて。優介君って不思議な人で、あまりロックっぽい事やってる訳ではないと思うんですけど、Paradise とかの事も興味を持ってくれる所あるみたいで、何か内に秘めた何かがあるのかなと勝手に思ってますけど。

あともう一人丸山君っていうドレスコーズでギター弾いてた人も参加してくれるんですけど、彼は呼詩の数少ない友人で、元々 Mokixx の頃から呼詩と仲良かったんですね。で、元々 Mokixx に僕が誘われて加入する時に、僕より前に丸山君を呼詩は誘っていたみたいで、もし丸山君がそれで Mokixx に入ってたら僕は誘われなかったかも知れなくて、そうなると Paradise も始まる事も無かったし僕も音楽始めてなかったかも知れない。そうすると昆虫キッズもやってないし、色々違ってたかも知れないです。

ーそれは何とも因縁が色々とあるんですね(笑)

冷牟田:そうなんですよね。だから僕と呼詩と丸山君が同じステージに立つっていうのはその辺も含めるとなかなか面白い事なんですよ。だからサポートメンバーを選んだ基準はそういう所にあります。

ーなるほど。これは冷牟田さん個人への質問ではあるんですが、昆虫キッズが終わっていく事で Paradise をやっている事への意識に影響などはありましたか?

冷牟田:そうですね。昆虫キッズが去年からツアーをやって1月に綺麗に終わって、その過程を体験している間にParadiseが何をやっていたかと言えば萌君が連絡取れなくなって、揉めたり、何なんだろうこのまとまりの無さはという感じはあって(笑)Paradiseが昆虫キッズみたいに人に愛されて終わるというのはあり得ないんだなと思いましたね。Paradiseは最後まで事件のような存在で、どうなるか分からないバンドとしてやり切るしかないのかなと。

ーなるほど(笑)今後の展望に関してはどうでしょう?

冷牟田:今の時点では今後があるのか分からないですけどねぇ。とりあえずもう2人になっちゃったんで。その辺は僕も呼詩もどうなるか展望は見えていないと思います。

ーでも僕は個人的には4曲目の「初恋の狂気」が無かったらこのまま終わっちゃうかなとも思ってたかも知れないんですよね。

冷牟田:そうかも知れないですね。この曲を2人でも作れたというのは今後があるとすればそれに繋がる事なのかも知れないです。ここを基点としてまた新しいこれまでとは別の何かを作り出せるかも知れないし。

ーとりあえずこの作品は、これまでのアルバムの中でも入り口として一番取っ付きやすい要素はあるように思います。友達にParadiseっていう良いバンドいるんだよって言ってビアトムンフラワー渡すのはなかなかハードル高いと思うんですよ(笑)それに比べると今回のアルバムはすごく分かりやすくParadiseのかっこ良さが出ていて、しかも最新型だというのが魅力だと思います。とりあえずロック好きな人には聴いて欲しいなと思うんですけどね。

冷牟田:ありがとうございます。そうですね、やっぱりシーンの中でも分かりにくいバンドだったと思うんですよ。サービス精神も無いし。よくロックは喧嘩しながらやるのがカッコ良いみたいな感覚ってあると思うんですけど、そういうのとも違うんですよね(笑)エピソードでは語れないような生々しい駄目さがあって。本当今までも公に出来ないような駄目な事いっぱいありました(笑)

ー(笑)でもそこが良いんだけどなぁ。

冷牟田:そうですね。僕らを好きな人はそういう所も含めて他のバンドには無い面白さを感じてくれてると思うんですよ。まぁ本当こんなバンドがよく8年間も続いたなと思いますよね(笑)

でもまぁ一番自分が良かったなと思ったのは、4枚目にしてこの生まれ変わったファーストアルバム。でもバンドは崩壊という。それがすごい良かったな(笑)

ー(笑)Paradiseっぽいですよね。

冷牟田:うん。これでファーストっぽい感覚でみんなでまたやっていこうぜでは無く、その代償でバンドは崩壊っていう。でも逆にその分次続くとしたらどうなるか分からないという面白さもあるし。もしかしたらこのまま終わるかも知れないし。その辺は個人の意思を超えている所があるんで。

ーでもそこは冷牟田さん次第だと思いますよ。

冷牟田:そうなんですかねぇ。悩む所ではあるんですけどね。

ーとりあえず5月のレコ発ライブですね。今回のアルバムは本当にこれまでよりも色々な人に届いて欲しいと思います。

冷牟田:ありがとうございます!

Paradise 宮腰呼詩 (Vo) / 冷牟田敬 (Gt,Vo) / 関口萌 (Dr,Vo)


5/13 (水) Paradise「Double dream is breaking up the door.」ワンマンライブ

19:30 open / 20:00 start
adv¥2,000 / door¥2,500(+1drink)

Paradise 宮腰呼詩、冷牟田王子
サポートメンバー
Dr 佐久間裕太(ex昆虫キッズ、スカート)
Ba 佐藤優介(カメラ=万年筆、スカート)
G 丸山康太(exドレスコーズ)

(opening act 冷牟田敬)


Double dream is breaking up the door.

2015.3.18 | MY BEST!RECORDS

1. “ブレイズ ネイル” 『Brais Nail』
2. Paradise
3. complexion
4. 「初恋の狂気」
5. The Sick Rose
6. Dawn
7. THE FOUNTAIN
8. The thousands of the Sun
9. All nerves
10. Double dream is breaking up the door.

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