都内を拠点に活動する男女5人組オルタナティブ・バンド ゆだち、1st アルバム『夜の舟は白く折りたたまれて』インタビュー

yudachi

都内を拠点に活動する男女5人組オルタナティブ・バンド ゆだち、待望のファースト・アルバム『夜の舟は白く折りたたまれて』を indienative より今年 11/4 リリース。アルバムリリースを終えたバンドにインタビューを行いました。

『夜の舟は白く折りたたまれて』
1.さよなら僕の夏
2.空洞
3.(die staadt) Norm
4.だれでもない庭
5.どこにもない家
6.(Stock) Holm
7.遠雷 (通り過ぎなかった夏の)
8.さよならユートピア
マスタリング:田中章義
イラスト:森本将平
写真:TATA
デザイン:本庄浩剛

構想期間と実際の制作期間はどのくらいですか?

構想期間、制作期間ともにこの時期からこの時期まで、という風には答えづらいものがあります。意識的にアルバムにするために動いた期間は1年ほどのような気がしますが、それより前からある曲も多いです。構想の芽生えまで遡れば少なくとも10年前・・・いや、生まれた時からのような気もします。

そしてこれはいまだに完成した作品でもないのだと思っています。これからもこの形になった『夜の舟は白く折りたたまれて』について、様々なものが想起されてくると思います。そのための装置が一つ外に向けて出された、というような感覚です。つまりこれからもこの作品について構想、制作していく、ということになると思います。恐らくは。

アルバム全体で、ギターやコーラスがかなり重ねられているように聞こえますが、録音が始まったときから、ある程度完成系は見えていた上でのアレンジなのでしょうか?それとも、録音を進めていく中で足し算的に重ねていった結果でしょうか?

最初の質問と重なるところもありますが、初めからこうしよう、と出来上がったものをイメージできてから何かを作ることはこれまでにはありません。これをこうしたらどうなる、これをこうしてみた、ということの繰り返しから、録音されたりされなかったりするものが出てきます。

レコーディング中に出てきたアイデアを入れることも多いですし、ライブでは弾いていたのに、録音では弾かなかった素材もあります。意識的にそうすることもあれば、気が付いたらそうなっていることもあります。そんな感じで足したり引いたりしているので、一人だったら飽きるまで延々とやっているような気がしてしまいますが、人とやっていると不思議とどこかで録音が終わります。

バンドでやっているから発表まで漕ぎ着けられたアルバムなのかもしれません。

今回のアルバムの音作りや作品のコンセプトなどにおいて、影響を受けたバンド、アーティスト、アルバムなどはありますか?

作品の正解、解説というわけでは全くないですが、いくつかわざとらしく遊びでやってみたこととして、ユーミンの1stアルバムの1曲目が『ひこうき雲』だから、1stアルバムの1曲目は自分たちなりの『ひこうき雲』にしよう、という企みがあったり、他にも幾つか思い入れのある音楽から引用したフレーズを入れたりしています。(個人で勝手にやろうとしたことも多いと思うので、全員で意思確認をしてやったことばかりではありません。)

普段よく聴いているアルバムからは影響が自然に出ていると思います。海外なら有名なところだと Mice Parade や Slowdive、Red House Painters、Sigur Ros、Yuck、Joy Division、Yo la tengo、American Football とか。日本なら toe、bronbaba、haruka nakamura、envy、Ogre You Asshole、Spangle Call Lilli Line とか。あげればきりがありません。


メンバー全員好きなものは似ているようで違っていますし、真似したり引用したりしようと思って演奏しても印象は変わります。その通りにならないことを楽しんでいます。個人的には女性の声とアコースティックギターの音が好きで、女性SSWのアルバムをよく聴いています。楽器の音も必要不可欠な要素を集めた結果ですが、歌が好きだから歌が目立つものにしたいという気分は楽曲にもよく出ているのではないでしょうか。

今回のアルバム制作において影響を受けた、映画、本、写真、体験、思想等があったら教えて下さい。

アルバムそのものを通して、本からの影響はわかりやすく反映されていると思います。私と本と音楽の間で起きたことは誰も知ることはできませんが、作品全体に漂う書物の気配を察する方は多いのではないかと思います。

私はよく、本を読まなければやっていられない、というほどの気分に襲われることがあります。暴力的なものに触れた時や、悲しい出来事を目にした時。退屈の気配を感じ取った時。深夜。音楽を聴きたくなるのもそういう時です。

悲しむことは、悪いことではありません。例えば古語では「愛し」や「美し」と書いて「かなし」と読むことがありました。かなしみとは、美しさや慈愛といったものの根底に流れているものではないでしょうか。歌も悲しみから生まれるのだと、悲しみが育てるのだと思っています。そして言葉はそれよりも前、もしかしたら宇宙が始まるよりも前からそこにあったのだと思います。

この1、2年、今回のアルバムを作っているあいだはとりわけ、そういうものばかりを読んでいたわけではありませんが、未完の作品や著者の意図に反して出版された作品、死後に発見された遺稿が注目されて現在も残っている本などについて考えることは多かったです。灰に成り損ねてしまったもの。

例えばフランツ・カフカの作品群、フェルナンド・ペソア、エミリ・ディキンスン、ノヴァーリスの『青い花』など。今作で引用が目立つミヒャエル・エンデも、有名な『モモ』や『はてしない物語』は確かに素晴らしい作品ですが、私は『だれでもない庭』という未完作品と遺稿が集められた本の方に、死を突き付けられるような生々しい感情を覚えます。

他には、モーリス・ブランショやマルグリット・デュラスの本もアルバムを作っている時期にはよく読んでいました。今もよく目を通します。メルヴィルの『バートルビー』からも強い影響がありました。ブラッドベリの『さよなら僕の夏』にも何か大切な示唆があったように記憶しています。パウル・ツェランやアントニオ・タブッキも夢中になって読みました。ヴァレリーも。あげればきりがありませんね。国内の作家なら須賀敦子、原民喜、宮澤賢治あたりは外せませんし、福永武彦や堀辰雄も繰り返し開きました。

本以外の体験で覚えていることでは、今年はとりわけ山口小夜子さんを巡る一連の動きにとても感化されています。映画はブレッソンの『やさしい女』が鮮烈でした。漫画なら『おもいでエマノン』、『ふたつのスピカ』、『Cocoon』など。


美術の展示で印象深いのは、ヘレン・シャルフべック、パウル・クレー、福田尚代さんの作品を見た時とか。どれもここ1、2年の間のことだと思います。クレーは餃子を楽しむ余裕もないくらいそれだけを見るために宇都宮に行きました。とても贅沢な時間でした。

僅かな言葉だけで表すならば、とにかく死者、憑依、幽霊、戦争、記憶・・・そして常にそこにある書物について考えることばかりでした。歌もそうだけど、美術も身体表現も文筆活動も、芸術というのは、贈与、継承の技芸であって、そのための儀式というか、降霊術のようなものです。作品には常に、私ではない誰かや何か、或いは全く知らない記憶の海の底の私、がいる。実在と不在の境を延々と探っているような感覚です。それはアルバムが出た今もそう変わりません。

とにかくいろいろ挙げ連ねてみたけれど、これを読んだ人が「そういうのが好きなんだ、へー」で終わらないで、一つでも興味を持って実際に触れていただけたらいいな、と思ってのことです。あとはその作品が他の作品に連れていってくれることを願って。

今回のアルバムを既成のジャンルで分類すると、何だとおもっていますか?ジャンルは、音楽に限ったものでなくても構いません。

うーん。それでは、「ポータブル文学」で・・・

今回のアルバムの詩世界について、僕は「最初から最後まで一貫した物語」とも「ある詩人によるコンセプチュアルな八編の詩をまとめた詩集」とも感じました。より作者の考えに近いのはどちらでしょうか?

作者もわかりません笑。そのどちらとも取れますね。「一貫した物語」という視点と「コンセプチュアルな八編の詩」という視点は両立するのではないでしょうか?勿論それ以外の捉え方もできそうです。解釈をしていただくのは幸せなことですし、その解釈が、私が制作中に考えていたことと接近することはあり得ることだとは思いますが、「作者の考え」の理解を望むようなものではありませんので、あれこれ想像をめぐらしてもらえると嬉しいです。好きに読んで、好きに受け取ってください。私が見えていなかったものが私の作品の背後に見えるということが、作品が既に他者たり得ている証左だと思います。

ただ、詩の世界はどのような解釈も許される、なんでもあり・・・というわけではないと思います。正解はありませんし、「理解」によって受け取られるものではないと思いますが、なにかしら「感染」するものがそこにはあってほしい、と思っています。

今回のアルバムにおいて、歌詞はどんな役割をもっていると思っていますか?

役割。難しいですね。作品の素材の一つです。作品がこのような形で生まれている以上、なくてはならない素材であることは確かでしょう。歌詞は言葉ですが、音もまた言葉の一形態です。言語による言葉が歌詞ならば、音による言葉が旋律や楽器の音色になっています。言葉と言葉が様々に関係していくことによって、或いはその関係が見出されることによって、音楽は出来上がっていきます。

そして、歌詞は言語をその要素として持っていますが、言語はそこではその語が指し示す「意味」だけを内包しているわけではありません。歌になればそれは音や響きを内包しますし、文字になればその造形もそこには関わってきます。「やさしさ」という言葉を聴いた時、私たちはその意味だけを聴いているわけではないですよね。その人の声の響きや高さも聴いています。暗闇ならばそうはなりませんが、目では口の動きや表情、仕草を見ていることもあるでしょう。

言語が文字情報になれば、今度はインクの色や、書かれている紙の色や質ともまた関係を結びます。文字の造形とも。ですから、私にとっては素材そのものよりも、その他の素材との連関の方が重要に思えます。音と言葉が互いに連関していくこと、声と言葉、声と音、曲と曲とが繋がりを持ち始めること、そういう過程が大切なことのように思います。何かそこにはとても言語化できない「遊び」、言い換えれば儀式的な「祈り」の様なものがあると感じます。

ですから、先述したように、そういう連関の全てをあらかじめ意図した上で、結果を想像した上でやっているわけではありません。一つ一つ、組み合わせながら見ていきます。どれだけ時間をかけて見つめても、見えていないことがある日突然浮かび上がる。そういえば、フランツ・カフカは自著の装丁に異常なこだわりを見せる人だったとどこかで読んだことがあります。書物が言語の意味だけを表現するメディアではないと考えていたのだと思います。

普通作家は自著の文章を作品ととらえ、装丁は作品の外側にあるものと割り切って、それほどはこだわらなかったりするものだと思いますが、カフカは細かいところまで指摘する人だったようです。私も、どこまでが作品なのだろう?ということをよく考えます。どこからが作品なのだろう?ということも。一応の線引きはなんとなくしていますが、折に触れてその固定観念のスイッチを切るように考えることがあるのです。

例えばこのアルバムが部屋に置かれることによって、その部屋の空間自体も見え方は変わってきますよね。そうすると、このアルバムが内包しているものはやっぱり音「だけ」ではないんだな、と思うのです。今作もアートワークはそれぞれ専門の方々にお願いしましたが、それは他の人の手が加わることによって起こる良い意味での予期せぬ「事故」を楽しもう、と考えたからです。

バンドもそうで、一人で持ち寄る素材では作れない、予想もできない連関と、その結果を楽しむメディアだと思います。では、一体誰が「ゆだち」のメンバーで、誰がそうではないんでしょうね。いよいよわからなくなってきましたね・・・。

音楽というものにおいて、美しいと感じる瞬間はどのようなときですか?

音楽が私から遠く離れて、もはや誰のものでもなくなるとき。書いた覚えのない言葉を見つけ出したとき。

次回作の構想はありますか?

作品は待っていれば、然るべき時に現れます。次にゆだちの名義が添えられる作品がどういうものになるか、それが音楽作品なのかわかりませんが・・・いやいや、音楽を理由にして集まったメンバーですので音楽を軸に据えた作品である可能性が最も高いですね。とにかく予想はできませんが、どういうものだとしても我々が生きてさえいれば、あと解散?などをしなければ、いずれ見出されると思います。

音楽のアルバムでしたら、書籍型のアートワークを作ってみたい思いが強くありますね。今回それが叶わなかったので。

書棚(自室) 2015

「書棚(自室)」 写真 (2015)

今後の活動やライブの予定など、あれば教えて下さい。

12/13 と 12/20 にそれぞれ恵比寿 Batica というところであります。詳細はSNSなどにアップされています。それと、詳細は未定ですが、2月7日にレコ発を企画しています。渋谷の7th floorというところで行われる予定です。

最後になにかあれば、ひとこと

先の質問で「物語」という言葉が出てきました。物語にはいつも余白、つまり、書かれなかったこと、書かれなかったものがつきまといます。書物にもまた、文字の周縁としての余白があります。そういえばこのアルバムのジャケットにもイラストの周縁には余白がありますね。そして現実に対しては夢が、生きている者の傍には死者が、常に実在する何かは不在する何かとともにあります。少しでも想像力の手が余白へと差し延べられていくような体験を祈っています。ありがとうございました。

出演 : 峯岡夏希
撮影・編集 : 坂下ひかり
監督:三嶋佳祐
WEB : http://yudachiband.tumblr.com/

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