川本真琴 × 中村宗一郎 (エンジニア) 対談

川本真琴の2013年作品『願いが変わるまでに』がようやく配信発売されます。この機会に本作含め過去3作に関わったエンジニア中村宗一郎氏との対談の場を設け、実はこれまで2人でゆっくりしゃべったことはなかったのですが、あまり語られることのなかった話を明らかにしましょう。

■『願いが変わるまでに』(2013年)について

―新しいもの(『願いが変わるまでに』)から遡っていきましょうか。

川本 (以下 K):このCDが箱から(キツくて)出ないっていう…、

中村 (以下 N):マジっすか。ピチピチで作ったんですね。

―増刷分から直しました。

K:うふふ(笑)…。

―これは2013年、2年前ですが。

N:えーっ!こないだじゃないですか!そんな最近ですか?

K:ええ、わりと。

―(中村さんに)ミックスとマスタリングをお願いしました。

N:録りもちょっとやったんでしたっけ?

K:録りは、あの、えーっと…、やってないですね。

N:そうか、そうか。はいはい。

―この時はミックスデータを渡したんですね。

N:あ、そうだ。mabanuaさんが作ったんですね。

K:そうなんです。前と違うのが、ギター、ベース、ドラムとか、1本ずつ録ってない音源だってことが、これ変わったんですよ。ちょっと挑戦してみてるところですね。

N:そうそう、来た時点でもう音が出来上がってたんですよね、けっこう。

K:そうですね。でも、ドラムとベースは生で録ってるんですよ。

N:世田谷のスタジオでしたっけ?

K:えっと、代田にあるんですけど、そのスタジオでmabanuaさんが、アレンジとマニュピレートと…、まあほとんど。こういうダンス系のものって終わりが見えつつ作る感じってあるじゃないですか? バンドじゃないんで。

N:うん、もう完成がそのままいけますからね。

K:そうですよね、こういうふうにしたいっていうのが見えててやってるんで、多分大体の方向性ははっきりしてたと思うんですよね。……、どうですか(笑)?

N:あの、今、何となく思い出したんですけど……、「あんまり好きな音が入ってない」って言ったかもしれない(笑)。

―まあ、いつもやってないタイプの音ですよね。

K:そうだったんですね!

N:本物の楽器なのか、サンプラーっていうかシミュレートされたものなのかの区別がわからないっていうか。なーんか腑に落ちない感じがあって。

K:ああ、機械の音か、生音かがわからないってこと?

N:わからないっていうか、何かね、ナマじゃないよな~?と思うような感じがあったりして、なんかこう個人的にグッとくる感じがもうひとつ無くて。だからね、ちょっとあんまり、いじくれないかなと思って。このイメージがもう出来ちゃってるものを、あんまりグジャっとやっちゃうとアレだから。だからね、やや遠慮しつつ(笑)やりましたけど。

K:あの、このとき、女の子に聴いてもらいたいって気持ちがすごくあって。歌詞が女の子の気持ちの歌なんで、そういうサウンドにしたいなあって。

N:キラキラしてましたよね。

K:そう、カフェとかの。女の子がよく行くカフェに行くとボサノバでカバーとかありません?コンピレーションで。

N:はいはいはいはい。

K:あれやりたかったんですよ!あれやりたいって思ってて。で、ああいうのってバンドとかと違って全部が一緒になってる感じの音じゃないですか。歌もひっくるめて一緒、みたいな。で、ちょっとああいうの、リラックスする要素もあるなーと思って。で、ちょっとやりたいなって思ったんですよ。

―まあ、その話を作る前に聞いてたら反対してましたね。

K:(笑)そうですよね。

N:(笑)でも、けっこうダンサブルっていう感じじゃないですか。

K:あ、そうです、それに比べたらちょっとしっかりした音作りになってると思うんですけど。やっぱ結局、歌がそれにならなかったんです。フワッとしたボーカルにならなくて。やっぱり何か隠せない何かがある感じになっちゃって……。ああいうカフェで流れるやつって、引っかからないっていうのが特徴だと思うんですよね。でもわたしのは引っかかっちゃうんですよ、歌がどうしても。で、やっぱりどうしても歌詞聴いてもらいたいっていうのがあるんで、ガーって歌っちゃったりして。なので、歌だけが、そういう音楽のサラっとしたところに、ソング・ライティングが入ってきてるようなバランスのものなのかなー、と思ったんですよ。

N:なるほどね。そういう感じだったんですね。

K:そうですね。だから何かもっとドラムとかベースとかギターとかそういう、リズム感とかを本格的にすることも出来たと思うんですけど、とりあえず1回それでやってみたいというのがあって。

N:……、落とし所って言うとあれですよね……、変な言い方をすると目的がよくわかんないっていうか、どこに持っていって終結というか終わらなそうっていう、どうしたらいいのかな、っていうのはちょっとあったんですよ。

K:多分、あんまりそのへんあんまり考えてなくて、中村さん、ミックス・マスタリングっていったら、絶対にそういう私が今言った音楽とかって好きじゃないだろうし…。

N:そんなことはないですよ(笑)。

K:だろうし、聞いたこともないし、やらない!って思ったんですけど…。

N:そんなことないですけど(笑)。

K:でも、あんまり考えずに渡してしまったんですよ。そしたら結果的にすごい良い感じのところに……。音楽のファンの人もちゃんと聴けるし、ある程度私の思惑の女子にも聴けるような、何かそういうものになったのかなあ、ってちょっと思ったんですよね。

―ミックスをお願いした時は具体的に1曲ごとの指示は無かったんでしたっけ?

N:そうなんですよ、だから、どこに持っていくんだろうっていう、まあちょっと自分の方向を、決めちゃえばバーっとできるんでしょうけど、だからこのぐらいかな?って落としてとりあえずCD-Rに焼いて車で聴いて、っていう作業を何度も繰り返しやったんですよ。

K:そうなんですね!

N:そう。終わりをどこに持ってったらいいかっていうのがわからなくて。

K:けっこう難しかったんですね。

N:いや難しいっていうかね……、うん。いい感じにしてください、って言われるのが難しい。「何色なんでしょう?」みたいな。

K:ああ、でも出来上がって、周りの人に聴かせたんですけど、やっぱりミックス前と後は絶対もうミックスした後のほうがいいね、って言われたんですよ。

N:ああ、それは嬉しいですねー。

K:うん、すごい良くなったねー、って。

N:ああ良かったですねえ。アレンジっていうか、完成されちゃってる感じだったじゃないですか、もらったデータが。だからね、難しい……。

K:これはですね、mabanuaさんも初めてやったんですよ。

N:どういったお知り合いなんですか? 

K:何だろう…。私、Charaさんが好きなんですよ。で、Charaさんのアレンジや曲に、mabanuaさんが参加していてですね。ある日「何でもやっていいって言ったら何やりたい?」ってマネージャーに言われたことがあって、Charaみたいなのやりたいと思ったんです(笑)。そしたら「アレンジャーの人ちょっと知り合いです」って話になって、マジで?ですよね、ちょっとダメ元で聞いてみて下さいみたいな感じでお願いしたら、やってもらえることになって。この作品は、いつもの周りの人でやってもらうんじゃなくて、こういった紹介のされ方で始まった感じなんですよ。

初めてだったんで、私とmabanuaさんもどうなるかわかんなくて、最終の結果も、なるほどこんな感じなんだなって、ところで落ち着いてるんですけど。でも、いろいろ問題点とかも自分たちでわかっていて、あの、歌入れがけっこう綺麗になりすぎちゃって、綺麗に綺麗に録ってたんですよ。そしたら綺麗になりすぎちゃってぜんぜん伝わらない、みたいなボーカルになってしまって。歌詞が入ってこない、みたいな。で、これはもうぜんぜんダメだよねって思って、で、やり直したんですよね。歌は別のところでやり直して。何で、歌入れはあまり綺麗にやる方向じゃない方がいいな、っていうのがちょっとあったりとか。

N:何かこう、揃いすぎて綺麗になるとフックがないですもんね。

K:うーん、なんか機械的になっちゃったんですよね。それで、やり直したりとかもして。あと、音楽の方もドラムとかベースだけでも録り直してほしいなって思って、どこだったかな…、やっぱ生に差し替えたほうが、良くなったねっていうふうな、かっこいい音楽に近づいたなって。

N:多分ね、僕がさっき言った好きな音が入ってないというのはボーカルと同じことかもしれないですね。

K:あ、きっとそう。綺麗になりすぎちゃうですよね。

N:音がね。バックトラックもね。そのことだと思うんですよ。

K:で、そのへんとかもいろいろ私とmabanuaさんで今回わかったことがすごいあって。だんだん、だんだん、わかりながらやっていっていきましたね。

―この頃けっこうソウル系のCDいっぱい買ってましたね。

K:あ、あたしこの頃すごいソウル系好きだったですよね。いまもけっこう好きですけどね、ダンス系ていうか。

N:何かの時に「プリンスみたいにお願いします」みたいにってもらったことありますよね。何の時だったっけなあ……?参考までに、ってプリンスが送られてきたっていうのがありましたね。

K:たぶん「グラデーション」だと思うんですけど。それか「ザットスター(That star in the vicinity of the moon )」か。どっちかですかね。

N:プリンス、ぼく見たんですよ、東京公演。80年代後半の、2回行って。すごい良かったですね。

K:うん、わたしも1回イギリスで見ました。

N:すごいすよね、あの動き(笑)。音もすごいけど。

K:動き。ちょっと遠いとこで見たんで、なんか。

N:あ、ぼくもぜんぜん横浜スタジアムとか東京ドームとかだったから。

―じゃあ、次のアルバムいきますか。

K:えっ!はやくないですか!わたし聞きたいことがまだちょっと…。

N:どうぞ、覚えてれば。

K:実際、こういうダンス系のなんか…、マドンナとかプリンスとか、それぐらいの感じを出してみたかったんですけど、そういうのってやります?

N:あんまりそういう人がいないっちゃいないですけどね。好きですけどね。

―この直前に、藤井洋平(『バナナゲーム』2013年)のマスタリングやっていただきましたが。

N:ミックスすごかったですね。あれぼくマスタリングだけやったやつですよね。ミックス面白かったですね、イリシットツボイさん。あれ音すごかったですね。バコーンとしてましたね。……、けっこうね、プリンスとマドンナ好きなんですよね、そういえば。なんか、知らなくてもノれるとかあるじゃないですか、曲が。

K:音に透明感がありますよね。

N:うん、どのCDプレーヤーとか車とかで聴いてもいい感じに聴こえるっていうか。

K:曲がいい、っていうのがあるのかもしれないですけど。

N:まあ、まあそうですね。

K:アレンジとかすごく考えられてますよね。

―安いラジカセでも、家のオーディオセットでも、それからラジオで流れてくるのもどれもいいですね。

K:そうですね、絶対フレーズとかキメてきてますよね。何かこう、例えば前奏とか間奏とかあってもあんまりジャムっぽくはなくて、しっかりキメてくるフレーズがあって、っていうのがあって。けっこうそういうのをやってみたんですよ、このCD(『願いが変わるまでに』)は。中間の間奏のフレーズはこれで後奏にきたらこれがくるみたいな、フレーズ命みたいな、そういうのがあって。

N:そうですね、組み合わせというか、かなりアレンジが。

K:曲とアレンジのフレーズが、一緒に考えてたんですよ。そのフレーズありきな…、ありきっていうか一緒になって考えてたんですよね。でもなんか最近はちょっと変わってきて、ジャムもいいな、みたいな感じになってきてるんですけど(笑)。それはちょっと悪い影響なんだって言われるんですけど…

―それで昨日のツイッタ-、オールマン・ブラザーズとかって言ってたの?

K:あ、そうだ、最近ああいうのをすごい好きになっちゃって。

N:(笑)マジっすか。

K:それはゴロニャンずの悪い影響なんじゃないかって言われてるんですよね。わたしはすごい好きだなーって思ってるんですけど、そっち行っちゃダメだって。そっち行ったらホント売れなくなるぞ、みたいな話をマネージャーから。

―正論です。

K:でも、わたしはそっちもいいのかなーなんて、自分の中ではいいなーって思ってたんですけど、いいなーって思うと次の作品に出そうかなって思うんで、「でもそれは売れなくなるぞ」って忠告されたんですけど。

N:(ずっと笑っている)

―1曲が長ーい、ね。

K:そう、長い。で、なんにも決まってない、ほとんど。

N:あのころはあれで良かったんですよね。時間もたっぷりあったし。

K:ほとんどがアドリブみたいな感じじゃないですか、フレーズとか。

N:ライブやるたびに違う、みたいなね。それはそれでプレイヤーサイドの人たちは面白いかもしれないですけど、客は飽きるかもしれない(笑)。

K:ええー、そうかなあ? わたし最近そういうライブ見たい、って思ってて。なんか疲れちゃったんですよ、全部決まってるものが。なんかこう、奇を衒って付けてる感じが。だけどやっぱり、面白いフレーズを付けてったほうが面白いなっていうのもあるんですよ。付けてきたいなっていう気持ちもあるし、半々なんですよ。もちろんこの『願いがかわるまでに』作った時は100%オールマン・ブラザーズ要素はないですよね。

N:ないですよ。

―ありません。

K:ないんですよ(笑)。だからいまさらに悪い方向に…(笑)。

N:(笑っている)。

―まあオールマン・ブラザーズはいいとして、さらにどうしてディッキー・ベッツ?

K:(笑)そうですか?すごいいいなーって思って。

―何聴いたんですか?

K:テレビ(WOWOW)で見たんですけど、20分くらい経って、あ!20分前のフレーズに戻ったんだ!みたいになってて。まだ1曲目だったんだ、みたいな(笑)。びっくりしましたね、フレーズ戻ってると思って(笑)。

N:まだやってたのか!って。

K:そうそう。いや、わたしは20分やるつもりはないんですけど。そういうことじゃなくて、いや、何かすごいいいなーと思って…。演奏もほとんどタイミングとかちょっと間違ってるっていうか…、間違ってるんですよ。

N:何か、プレイヤー目線というか、楽器をやる人がそういうのが好きだっていうのはわかるんですけど…。まあもちろん、やりますからね。歌の人が中心だと、もっと歌わせろってなるんじゃないかと思うんですけど(笑)。

K:この曲(「グラデーション」)、でも確かに、すごい練習して歌ったんですよ。練習しないと歌えなかったんですよ、やっぱクリックっていうか、ちゃんと合わせないとわたしだけすごい違和感になっちゃうし…、まあ、そういうのもアリだとは思うんですけど。

N:拍の取り方が難しそうなのありましたよね、PVになってた曲ですね。

K:そうですね、割りとキッチリめにやってましたね。まあ、そういうの以外が見え隠れしてしまうアルバムだったんですね。中村さんが出てきちゃう感じとか(笑)。

注目のニューカマー