Yo La Tengo & 坂本慎太郎の東京単独公演、盟友2アーティストによるW公演のライブ・レポートが公開!

Yo La Tengo & 坂本慎太郎

photo by 古渓一道 / Kazumichi Kokei

約3年ぶりの (ヨ・ラ・テンゴ)、ジャパンツアー東京公演、即日完売となった坂本慎太郎の東京単独公演盟友2アーティストによるW(ダブル)公演のライブ・レポートが公開!

一緒にライブをするのが約10年振りくらいで、前回もここ(O-EAST)だったこともあって、とても楽しみにしていました。個人的には声が全然出なくて、もっとヨ・ラ・テンゴの皆に良いところを見せたかったですが…。それは悔しかったけど一緒にやれて本当に楽しかった。
ー 坂本慎太郎

エモーショナルで、とても大切な機会だった。ゆらゆら帝国が解散してから、しばらく坂本さんは音楽制作やライブを休んでいたから、とても寂しかった。しばらくして、またベースを弾き始めたと聞いてすごくワクワクしたし、ライブを再開したと聞いて本当に嬉しかった。僕と彼はとても遠いところに住んでいるし、日本語は少ししか話せないけど、坂本さんは自分にとって本当に大切な友人であり、ミュージシャンであり、常にインスピレーションを常に与えてくれる人。だから今夜は本当に圧倒されたし、胸がいっぱいです。
ー James McNew

坂本慎太郎

ソロのライブ活動を始めて約1年。このタイミングで、しかもプレミアム・チケット化したヨ・ラ・テンゴとの相思相愛の共演というこのうえない機会に坂本慎太郎のライヴを見られたことは幸運だった。それぞれの単独公演もあったことやチケットの完売で、この日のライヴを泣く泣くあきらめたファンも少なくないはず。

定刻通りにステージに現れた坂本とバンド・メンバーたち。坂本の「あっ、どうも」という軽い挨拶で始まったのは、“スーパーカルト誕生”だ。フルートとギターとが官能的に絡み合う。続く“ずぼんとぼう”は、裏拍と表拍を行き来するギターと独特のパターンのビートが生む、えもいわれぬグルーヴがヒプノティック。

ちょっとした違和感が少しずつ積み重なって、いつしかまったく別モノになってしまった現実世界。坂本慎太郎は、そんな音の世界へと聴衆を知らぬ間に迷い込ませる。クラクラとしながらも、声の不調を謝りつつ「頑張りますので」と言う坂本のMCでふと我に返る。

圧倒的だったのは、ファンクとムード歌謡とがないまぜになったかのような“仮面をはずさないで”だ。単調なビートとコーラスの反復のうえで、サックスとギターがそれぞれにフリーク・アウトしていく。対比的だったビートと激しくエモーショナルなソロとが次第に浸食しあい、グルーヴの塊のようになっていくその様は、「ロック」という言うほかないものだ。

軽快な“幽霊の気分で”を終えると、坂本は「次の曲は歌う自信がないので、みんなで歌ってください。たまにはいいんじゃないでしょうか」と言い、“君はそう決めた”のギター・リフを奏ではじめる。手拍子とともに歓声が上がり、歌詞を口ずさむ人も。

“ナマで踊ろう”も“仮面をはずさないで”同様に、はじめは催眠的なグルーヴが反復されていたものの、次第にベース、ドラムス、パーカッション(というか、西内徹のダンス)、そしてギターが激しさを増していき、崩壊の一歩手前まで突き進んでいく。まさに「ナマ」の掛け合いとも言うべき演奏で、特に坂本のギターはこれまであまり見せていなかった、ここいちばんの激しいプレイを聞かせる。

そして最後は、坂本もフェイヴァリットに挙げるジェイムズ・マクニューのソロ・プロジェクト、DUMPの“NYC Tonight” (GG Allinのカヴァー)をジェイムズ本人の歌とギターを交えて演奏。一度聞いたら忘れられないセンチメンタルでメロディとともに、坂本とヨ・ラ・テンゴ、両者のファンにとって忘れられない共演となったことだろう。一夜明けたいまでもジェイムズの控えめな歌声が聞こえてくるような、感動的な演奏であった。

Yo La Tengo

転換が終わるとともに緞帳が開き、テックのスタッフが捌ける前からフロアから歓声が上がる。なにせ、3年ぶりの日本ツアーの最終日だ。前夜はロング・セットを披露したというヨ・ラ・テンゴだが、この日は「盟友」とも言うべき坂本慎太郎との共演で、いやがうえにも期待が高まる。

アイラ・カプラン、ジョージア・ハブレイ、ジェイムズ・マクニューの3人がすっと現れ、演奏がスタートすると、フィードバック・ノイズを中心としたドローンがフロアを満たしていく。最新作『There’s a Riot Going On』の1曲目、“You Are Here”だ。

ヨ・ラ・テンゴはその短くないキャリアにおいて、大事にされているクラシック・アルバムが複数あるバンドだろう。それでも『There’s a Riot Going On』は、屈指の傑作と言えるだ。混迷を極めるアメリカ社会に静かに対峙するバンドの姿を生々しく伝えながらも、美しく精緻に編まれた楽曲たち。それらがステージ上で躍動感とともに再現されていく。

ラウドな演奏を聴衆に叩きつけたかと思えば、中盤はアコースティックな楽曲を披露。バンドの核とも言うべき繊細なメロディが露わになる。“Deeper Into Movies”で再びバンドはノイジーなロックのモードに。続く“Autumn Sweater”とともにマスターピース『I Can Hear the Heart Beating as One』の収録曲。この2曲のイントロでは、この夜いちばんの歓声が上がる。

人気曲“Tom Courtenay”から、最後は“Pass the Hatchet, I Think I’m Goodkind”。アイラはペグを回して弦を緩めたり、ギターでキーボードを叩いたり、ヴォーカル・マイクをギター・アンプに向けたりと、やりたい放題にノイズをまき散らす。汗みずくの彼に対し、ジョージアとジェイムズの2人はまるで気にも留めていないかのよう。冷静さとパワフルな熱情とが同居したその様こそがヨ・ラ・テンゴというバンドなのだろう。

アンコールでは坂本慎太郎を迎え、ザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの“Run Run Run”をカヴァー。ワン・コードを繰り返すだけの曲だが、坂本とアイラが交互に聞かせるギター・ソロが対照的でスリリング。続く“My Little Corner of the World”では3人の観客を舞台に上げて口笛を一緒に演奏。ダブル・アンコールにも応え、“Yellow Sarong”をしっとりと演奏、そのパフォーマンスは幕を閉じた。

ヨ・ラ・テンゴのサイケデリック・ロックは、どこまでも優しい。陶酔的ではあるが、眩惑的ではない。まるで日が昇る前の薄明のような、やわらかい光線のような音楽。日本語には「慕情」という趣深い言葉があるが、このバンドにはその言葉がよく似合う。アイラのノイズはときに暴力的だが、ジョージアとジェイムズの音をかき消してしまうことはない。3者が慕いあうかのようなアンサンブルと、その音に耳を傾けるオーディエンス。そこで交わされる情感を慕情と呼ばずしてなんと呼ぼう。ヨ・ラ・テンゴは、まったくもって並ぶバンドのいない、稀有な存在だ。そのことを大切に、しっかりと受け止めた一夜だった。

text by 天野 龍太郎